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六角の花   作者: フミ
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時々 晩御飯作ってくれるのはいいけど、お父さんって後片付けしてくれないのよね

ヒョットコの去った茶室に残されたもの、それは後始末だった。


「ぐっ、うぐっぐ。」


その呻き声は、外れた肩の関節と、

荒板を突き破る際に負った、全身の切り傷による痛みと、

敗北感と、

屈辱感に耐え、

腕が突き刺さった畳を引き抜く刺客ヒサハルによるものだった。


その様子に一瞥(いちべつ)もくれず、ニザエモンはヒョットコが突破して行った円窓を静かに見つめて言った。


「そなたにも自尊心があろう。

手は貸さぬ、手当もせぬ。」


「うぐっ、かたじけないニザエモン殿…

ぬぅぅ…ヒ、ヒデミツ様!」


ヒサハルは驚愕の余りに痛みを忘れた。

ヒデミツが脇差しを抜き、振りかぶったのだ。


ドスッ!


脇差しはヒサハルの腕のすぐ側に突き刺さると、畳をほじくる様に腕の刺さった穴を広げて行った。


「もう腕を抜くのに難儀せぬだろう。」


細心の注意を払いヒデミツは、ヒサハルの腕を包むように両手を添え引き抜き、縛(いましめ)から解放した。


「なんと!なんと恐れ多い!

打ち捨てられ野の骸となるが拙者には相応で御座る。

それを…ヒデミツ様に恥をかかせた拙者を…」


「肩をはめるぞ、歯を食いしばれ。

ふんっ!」


「うぐぁ!」


ヒサハルの言葉など意に介さず、ヒデミツは重力になすがままの腕を肩へと突き上げた。


「握れ。」


「はっ!」


ヒサハルの手は力強く握られた。

それは肩の関節が元に戻った事を意味した。


「開け。」


「はっ!」


主君の言うがままに拳は開かれた。


「外れた肩などろくに手当した覚えは無いが上手く行ったようだな。」


「かたじけなのう御座る!」


ヒサハルは思うようになった両腕を、まずは畳について、続いて額を畳に叩き付け、擦り付けた。


「おぶれ。」


ヒデミツはしゃがみ、平伏すヒサハルに背を向け短く言った。


「滅相も御座らん!」


「おぶれ!!」


「おっ、おぁあっあっあぁぁ!」


深く重い嗚咽だった。

今更隠せはしないが、武士の一分によりそれはただ下へ下へと放たれた。


「無様に泣きわめきおって、これでは此奴を伴い外に出られぬ。

暫し待ってやるから、さっさと落ち着かんか。

モトノブよ待つついでに一つ問う。」


「何だ?茶室の修繕費ならアキヨリ殿が賄う故要らぬぞ。」


「儂が勝ったならば儂が天下人と認めるであろうな!」


「我等が敗れたなら是非に及ばず、

勝手に天下人を称すればよい。」


「そうは行かぬ!

儂が勝ったなら五機(ごき) 七道(しちどう)を、

真の天下人と剣聖キラ ノブモトが認めるはナリカワ ヒデミツだと触れて回れ!

触れて回ったなら腹を切れ!

よいな!!」


「家臣への温情を見せ付けられ感心しておったが、急に小さい事を吐かしおる。

構わんよ、やってやる。

しかし 我等が勝ったなら何とする!」


「好きにしろ!」


「まずはアキヨリ殿の家人達の前で、丸めた頭で平身低頭、腹の底から詫びてもらう!」


「二度言わせるな!

儂等は大名共の到着を待たず引き払う。

行くぞヒサハル!」


「はっ!」


ヒデミツは未だ全身に力の入らぬヒサハルを強引に背負い、

貴人を招く為に設えられた、躙(にじ)り口とは別の通常の大きさの出入り口の引き戸を、

両手がふさがっていた為に足で乱暴に蹴って開け。


「座興だ!

座興で悪乗りしおったヒサハルが怪我をしおった!

誰ぞ典医を呼んでまいれ!」


ヒサハルを背負う主君に、何事かと目を見張る護衛の兵達に言い放ち出て行った。


ニザエモンはヒデミツが出て行った、開け放たれたままの引き戸を見つめ、

なぜだか未だ所在の分からぬヒデカツに思いを巡らせた。


「聞いた話では 己に味方した兵達の身内を思いやるなど、

その侠気(おとこぎ)はヒデミツが父、そしてヒデカツにとっては祖父の、

我が盟友ナリカワ ヒデオキを思わせる。

お前が真に恐るるは、私やアキヨリ殿では無く、

ヒデカツなのではないか?」


名門ナリカワ家は、古来より血生臭い骨肉の争いの絶えない家系であった。

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