宣戦布告
「狂人!何を返答しろと吐かすか!」
「その問答はいたさん!
拙者を狂人と申されるなら、
藪から棒に御子息であるヒデカツと拙者を、
罪人が如く並び称し、差し出せなどと申される其方は何人か?!
己から進んでヒデカツの名を口にしておきながら何を返答しろとは笑止千万!
拙者が何を問うか、何者が黒幕かなどは問答無用!
返答いたせ!さあ!さあ!さあ!さあ!」
「屁理屈ばかり並べ立ておって、そんなに知りたければ教えてやる!
おのれ等の咎は生きているだけで人が死ぬ事だ。
英雄気取りの小賢しい青二才がそこにおるだけで、
己の無能さ故にうだつの上がらぬ有象無象が
夢だ理想だなどと、己の都合の良い世の中を妄想し、英雄気取りを担ぎ上げるのだ!
おのれ等は生きた乱の火種だ!
特にアキヨリおのれは格別だ、
乱世においては、その超常の力は持て囃されるであろうが、
一度世に平安がもたらせられたならば恐怖の対象だ。
常人と大きく異なるものは良であろうが善であろうが悪なのだ!」
ニザエモンはアキヨリを見た、そして目を瞑った。
『老婆心であったな。』
そう胸で呟いて。
アキヨリ自身 幼少より奇異の目に晒され、
自分は生きていて良い人間なのだろうかと、思い悩んできた事は想像に難くない。
触れてはならぬ精神の領域である、駆け引きに長け肝が据わってはいるが、まだ年若い。
存在意義を理路整然と真っ向から否定された彼の心中を思い計っての事だった。
しかし数年前ならまだしも、今のアキヨリの心底には野太い不倒の柱がそびえ立っている。
それは多くの友そして。
『リッカ。』
無意識に胸の奥に去来する最愛無二の人。
たとえ自分が世界を滅ぼす禍々しい存在であったとしても些細な事だった。
生きていて良いのだ生きねばならぬのだ。
「ヒデミツ殿の言い分とくと承知した。
しかし二つと無い安息の地を追われた我が家人への返答は何とするか!」
「民を束ねるべき大名の家に生を受けておきながら青臭い戯言を吐かすな!
そのような取るに足らぬ者共を一々気に掛けていたら政などつとまるか。
言うなれば下賤共の咎はおのれと関わった事だ!」
アキヨリの茶筅髷を束ねる麻の紐が焼け焦げ消し飛び、長い髪が燃えるが如く揺らめいた。
しかしそれとは対象的にその顔はさざ波一つ立たない海の如く何の色も表してはいない。
「粗茶で御座る。」
やにわに されど静かに、
ヒデミツの前に抹茶を満たした、黒の中に透明感のある青い星が点在する天目茶碗が差し出された。
「我が義兄 名工スズキ ゲンノスケが作、 宋代の名品を模した、曜変天目茶碗で御座る。」
「んぐっ!」
ちぐはぐな動作で唾を飲み込んだヒデミツの喉がおかしな音を立てた。
「名工の作り出す名品には作り手の魂が籠って御座る。
この茶碗が良い例、一々作られた経緯など聞かずとも一目瞭然。
同時に下手が下手なりに心を込めて点てた茶にも魂が篭って御座る。
つまりただの茶のみならず、何か一つが付け加えられたもので御座る!」
「ぐっ!」
(何か一つ)その言葉により連想されヒデミツの脳裏の浮かんだ一文字それは「毒!」
「お召し上がり下され。
拙者の問いに正道を示し答えたならば躊躇う理由などあるまい!!」
「ふざけ半分に点てた、何が混ぜ入ったか分からぬ茶など飲めるか!」
「この茶に込められしは、何のいわれも無く家を焼かれ、安息の地を追われた我が家人の無念と、この俺の忿怒だ!
よってこの二つが込められしこの茶をシジマ アキヨリが宣戦布告といたす!!」
ズバッ!!
言うやいなや飛び退き立ち上がるアキヨリの鼻先を追い、畳を突き破り白刃がギラついた。




