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六角の花   作者: フミ
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恨み節

「!!!!」


声にならなかった、歌どころではなかった。

原因はニザエモンの突然の変貌ぶりではない。

豪商の中身は抜き身の刃だという事など、始めて見(まみ)えた時より百も承知だった。


驚愕の原因、(キラ ノブモト)何度も耳にし憧れたその名を、

その名を聞かせた人物がアキヨリの脳内で代わる代わるその名を告げる。

先ずは父アキナガ


「儂の思う誠の武人とな。

アキヨリよ、その問いに先ず頭に浮かぶはキラ ノブモトだ。


更にその名を聞けば目に浮かぶは船岡山の大籠城!

寡兵を率い、名だたる諸将を向こうに回し、十万の軍勢を前にし身じろぎもせず凛然と城門に起立し、一度敵が城門に襲い掛かれば、無数の竜が解き放たれが如く、弓矢 長槍を巧みに操り、押し寄せた兵が討ち取られて行く様は、波が割れ飛沫と消えるが如くであった。


船岡山に馳せ参じた儂は、ミナヅネ様の威光とノブモトの武勇に心奪われたのだ。」


次いで大叔父 ゲンユウサイ


「キラ ノブモト…懐かしいのう、

強いだけでなく人として誰からも敬われ慕われた。

ナガヨリとは息の合った良き相棒同士だったなぁ。

叶うのであれば お前達若い世代を導いて欲しかったが、今となっては栓無きかな。」


そして主君 オアイ ミナヅネ


「アキヨリよく来たね。

大きくなったね、シジマ家は皆長身だから、私の背丈など追っ付け追い越してしまうだろうね。

ノブモトについて聞きたいのかい?


そうだな、兄であり師であり…私を主君と仰いでくれたがね、旗揚げの頃より私は彼を頼りきりだった。

叶う事ならもう一度…


ははは、思い出に浸ってしまったね。

そうだ 口で言うよりキラ ノブモトを知る手段がある、

彼より伝授された剣技の一つ 今から授けてやる。

ほれ 木刀を取れアキヨリ!」



「歌が止まっておる。」


抜き身の刃はヒデミツから視線を外さず、重く低く指図したならば、アキヨリは我に返り歌い出す。


「はっ、ははっ!

あ〜父の名前を呼んでみる〜

兄の名前を呼んでみる〜」


「何がつまらんだ、何がつまらんノブモト!

儂が どれだけ苦労し、どれだけ犠牲にして築き上げたと思っておる!

何故儂を認めんノブモト!

何奴も此奴も何故 儂を認めん!」


ヒデミツは感情を露わに、

しかし先程の上ずった感は なりを潜め、黒い威圧感を高騰させ詰め寄った。


「絵に描いた様な天下人を気取っておったが、少しはマシになったな。

駄賃に御丁寧に聞かせてやるから とくと聞け!


お前は何も無い所から一を作る力が無い。

民が望むは古き良き拠り所だとか申したな。

それは 新しい何かを創り出せない、お前の無能さを誤魔化して、格好つけているのであろうが!」


「新しければ良いというものでは無い!

事実 ミナヅネ様は朝廷 寺社の旧勢力から理解されず、

何をするのか分からぬ正体不明の恐怖の対象として誅殺されたのではないか!」


「ならば遺された我等が意志を次がんでどうするか!

過去の将軍が行った政(まつりごと)に一つ二つ付け加えた、出来損ないの法律で、十代 二百年続けば、

やれ世継ぎが気に入らん、やれ金が回らんと天下万民を巻き込んだ乱痴気騒ぎを繰り返す、

カビの生えたような政権を打ち立てたところで愚行の繰り返しだ!


我等ミナヅネ様家臣は、お前の父ヒデオキは、この様なつまらんものの為に命を賭し戦い抗い続けたのでは無いぞ!」


「絵空事ばかり吐かすな!

英雄は死に絶え、お前は年老いた。

儂にどうしろと言うのだ!」


「譲れ!」


「誰にだ!」


「次代を託すべき若き英雄なら目の前におる!」


「その様な事が出来るか!」


「嫌と言うなら津々浦々より集いし我が息子達が相手になる。

我等が掴んだ お前の汚濁は大名共には黙っていてやる。

さっさと国元に立ち帰り、手勢を率いてやって参れ!!」


「ぬううう!図に乗りおって!

どこの馬の骨をどれ程集めたかは知らぬが、

我が七万の兵に太刀打ちできると思うな!

必ずその首 六条河原に晒してやる!」


「友の呼ぶ声聞こえ来る〜

朱に塗れて両膝付いて〜

済まぬ許せと涙ながら〜に〜

住む家焼かれ〜故郷を追われ〜

何を恨めば〜誰を憎めば良いのやら〜」


ヒデミツは袴が焦げる程に力任せに畳に擦り付けながらアキヨリに向き直った。


「何が言いたい!

くだらぬ歌をやめろ!」


「ナリカワ ヒデミツ殿にお尋ね申す!

拙者に何の咎があった?!

ヒデカツに何の咎があった?!

我が身内に何の咎があった?!

何故にこれ程の辛苦に塗れねばならなかった!

返答いたせ!!」




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