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六角の花   作者: フミ
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ヒョット哀歌(エレジー)

そこには大きな赤い塊があった。

ニザエモンとの駆け引きに、脳の領域の殆どを使用していたヒデミツは、

突如現れた赤い塊が何なのか一つ一つ解析する必要があった。


先ず一番手前に水屋からの廊下についた二つの手があった、

どうやら人間のようだ。

そのすぐ後ろに額を床に押し付けた人間の頭があった、

後頭部には茶筅髷(ちゃせんまげ)がそびえ立っている。

そして身を縮めるように伏せる真っ赤な茶道着。

土下座であった、茶道の作法にしては行き過ぎであったが、

引き伸ばせば、身の丈六尺 (約180cm)はあるであろう偉丈夫を思わせる赤い塊から慇懃(いんぎん)さは全く伝わっては来なかった。

それらの一つ一つ解析した全ては一人の男を指していた。


「ア!アキヨ…「オオグソアン ヒョットコサイに御座いますぅ!」


ヒデミツの言葉を遮り名乗り赤い塊が顔を上げた。


八の字の眉

小馬鹿にしたように見開かれた目

膨らんだ鼻の穴

極限まで曲げ尖らせた口


それらを全て行ったなら シジマ アキヨリは オオグソアン ヒョットコサイとなるのだ。


ヒデミツは自らの目から下の顔の筋肉が痙攣しているのを自覚し、収集は困難と見るや なすがままとし、

事態の把握と対応に知性の全てを総動員させた。

先ずは武威の権化たるこの男に戦闘の意思の有る無しを見極め、

場合によっては茶室を囲み待機する護衛を呼び寄せなければ命が無い。


『どうやら丸腰のようだな、

変に律儀な男である故 茶道に則り暗器の類いも持ち込むまい。

呼吸も平常だ、筋肉にもこわばりは無い。

ええい うっとおしい!目を合わせくるな!


しかし何の為に現れた?

ニザエモンが此奴を食客としているなら、

ホウライ山でのあの一件で、ヒデサトの兵から此奴を救い出したのもニザエモンという事になり

一部始終はニザエモンの知るところと思って間違いない。


当然 姿を消したヒデカツも同様である筈とカマをかけたが、当てが外れ後手を取った。


いや、此奴等の事だ、決め付けてかかればまた後手を取る羽目になる。


此奴が堂々と命を狙う儂の前に現れた意味…

一万の兵を目の当たりにして恐れぬ理由…

儂同様に これより到着する大名共の前にも現れるつもりか?!

ホウライ山の一件は ヒデカツに城を乗っ取られたヒデサトの失態もあり、

ナリカワ家の威信に関わる故 公にならぬよう心を砕いてきた、

それを暴露するというか?


いや、今や捨て身でイスパニアを退けたアキマサは 大名共の間では神格化されておる。

実弟であり超常の力を持つアキヨリを担ぎ上げ 現状を覆さんとする大名も現れぬとも限らん。


待てよ…まさか!まさか!まさか!此奴等 儂がイスパニアと繋がっている事を既に暴いたか?!」


「口より火を吹き二十年〜

仇となったかヒョットコの誹(そし)りぃ〜」


ヒョットコサイは突然 舞い歌い出した。

ヒデミツは呆気に取られるを通り越し、思考の停止を余儀無くされた。


「これ!ヒョットコサイ、歌などよい、早くヒデミツ様に茶を立てて差し上げなさい!」


「あ〜い〜

とんだ失礼をいたしました〜

ほりゃ〜」


ドスン


ヒョットコサイは飛び上がり、

空中で正座したままニザエモンの横に着地して、

尻で押し退け手前座の主となった。


「それでは結構な御手間を開始いたしまする〜」


シャカシャカシャカシャカ


ヒョットコサイが茶筅を回す茶碗からは抹茶が激しく飛沫を上げ始めた。


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