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六角の花   作者: フミ
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匍匐前進

火の見櫓を下りかけたフミは尻に名を呼ぶ声を受けた。


「フミさん ナリカワ様は あとどれ位で御着きになりますの?

わたし待ちくたびれてしまいました。」


大通りの両脇には商家に勤める使用人や侍女が立ち並んでいた。

その内の一人がフミを振り返り退屈顏で問うて来たのだった。


「皆様お疲れ様です。

行列は道祖神塚の辺りまでやって来ました。

シノちゃん もう少しだから辛抱してね。」


「はーい。

フミさんもお疲れ様ぁ。」


「うふふ、あたくしは特に役目はありませんの。」


フミは小走りで大通りをニザエモン邸へと駆け、道中ひっきりなしに使用人達にねぎらいの声をかけ続けた。

つまり出迎えの例は街の入り口から終着地であるニザエモン邸まで続いていた事になる。


フミはニザエモン邸に到着すると 先ず裏手に周り、水路に浮かぶ小舟の船頭に声をかけた。

船頭は菅笠(すげかさ)をかぶり、櫂を脇に抱えて座り居眠りをしている様にも見えた。


「スミトモ様、ナリカワはもうすぐ到着いたしますよ。」


「ああ フミか…

すっかり秋だな、日差しが丁度良くて眠っちゃったよ。

どうせ話がこじれて刃傷沙汰になっても、アキヨリがみんなヤっちまうだろよ。

ニザエモン親分を逃がさなきゃならなくなるなんてまずないよ。

俺の出番なんか無いんだから、帰っていいかな?」


「何を仰います、ナリカワは一万の兵を引き連れてやって来たのですよ。

いくらアキ様とて そんな大軍を御一人で相手になど出来ません。」


「へえ 一万!

つくづく臆病者だよナリカワは。

でも一万なんて人数が街の中に寝泊まりなんか出来ないさ。

下っ端は街の外で野営だろうよ。

一万がいっぺんに襲ってくるなんて無いよ。

そしたらリュウキュウ屋に陣取る、キリュウとフジオカとドウゼン達がヤっちまうだろよ、あっという間にさ。

それにこんな地味な服着せられたらヤル気出ないよ。」


フミは肩をいからせ水路へ下りる坂を下り小舟に飛び乗った。


「もう真面目にお勤めして下さい!

今日はサカイの運命を左右する日だというのに、どうして皆様こんなに緊張感が無いのですか?!」


「アキヨリとニザエモン親分は海千山千の勝負師よ、絶対に下手は打たないよ。

ところでフミよ、ヒデサトの親父がすぐそばまで来てるよ…

なんつったらいいかなぁ…

平気かよフミ。」


「あたくしはナリカワ ヒデサトを仇とみなしております。

しかしナリカワ ヒデサトとナリカワ ヒデミツは親子ではありますが別の人間です。

私怨をヒデミツに向けたりはいたしません、ですがアキ様を陥れた男が治める国に生きたくはございません。」


「それでいいよ。

なあフミ いつか俺がお前の仇を討ってやる、そしたら人を恨む気持ちは綺麗さっぱり捨てちまっちゃくれないかなぁ?

分かるかなぁ?フミはこっち側に来ちゃいけない人なんだよ。」


「スミトモ様…」


フミは胸の前で両手を握り締め、こみ上げて来るものを堪えた。

スミトモが珍しく、涙ぐむ女の扱いに躊躇(ちゅうちょ)していると、

屋敷の正門の辺りから数人の話し声が聞こえて来た。


「あわわ 来た!ほら来たよナリカワ!

見に行くんだろ?」


スミトモの後ろの石垣を組んだ護岸(ごがん)には穴があった。


「あっ!はい、行って参ります。」


屈んで通れる程の穴にフミは頭を突っ込み、モソモソ尻を二、三度振ると穴の暗闇へと姿を消した。

その尻にスミトモは言った。


「俺に惚れるなよフミ、へへっ。」


「憎らしい!もう手遅れですから。」


穴の中は暗かったが真っ暗ではない、ニザエモン邸の離れにある茶室の話し声と、小さな穴からの光が漏れて来ていた。

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