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六角の花   作者: フミ
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含み笑いの火消し纏

トキ タケトシは傀儡(かいらい)である。

天下まであと一歩と迫りながら誅殺された、アキヨリやジョスイそしてナリカワ ヒデミツの主君であったオアイ ミナズネの遠縁とされ、畿内一帯と東海 北陸 四国 そして中国地方を版図とする大勢力の統領に担ぎ上げられたのだ。


歳は三十四 旧幕府の管領を務めた一族の出自ではあるが

管領という高い地位も幕府そのものが存在しない今となっては意味を成さず。

没落した一族の系図の端に名を連ねる、つまり只の人である。

恒産無くして恒心無し のことわざ通り

名門の出自を売りに、近頃のし上がった権威をありがたがる大名達を渡り歩き、

小銭を騙し取って食い繋いでいたが捕らえ、

土壇場の人となったところを、

利用価値ありと見たナリカワ ヒデミツに拾われたのだった。


それが今や烏帽子 直垂姿で駿馬に跨り、一万の武者行列の主人となっている。

無論実質の主人は隣を行くナリカワ ヒデミツであるが。

行列の行き先はサカイ 豪商ひしめく富のるつぼは眼前に迫っていた。


「何度も申した通り、万事段取りは儂がつける。

それまでトキ殿は 誰に会っても頷くのみで口をきかず、

用意された宿に着いたなら出歩かず、よろしいな。」


今日ヒデミツがその台詞を吐くのは七度目だった。

木偶人形に物事を理解させるには労を要するようだ。


「…」


木偶人形は黙って頷いた。



建築物が密集するサカイの中心部には防災上 等間隔に火の見櫓が建てられていた。

東の門に最も近い 火の見櫓に上ると、街の中心を貫き都まで続く大通りを、街を取り巻く田畑や集落の先まで見渡せた。

火の見櫓の目的は火事を発見する事である。

街の外を見渡せたところで役には立たない。

つまりその櫓は物見櫓であり軍用であった。

櫓には火消しの装束を身に付けたダンザとフミの姿があった。


「一万か…茶会に赴くには少々大人数だな。」


ダンザは大通り沿いにある道祖神塚の一番高い檜の木に付けたドーマンの印からの視点と、肉眼からの視点を交互に使い行列を探っている。


「ダンザ様 ナリカワだけで一万なのでしょうか?

他の大名達も一緒ではないのでしょうか?」


フミは青ざめた、ニザエモンが予想した ナリカワ ヒデミツの今回の茶会の目的を聞かされていたからだ。


「旗指物はナリカワだけだな。

諸大名は遅れて来るという手筈は変わり無いらしい。」


「大名達の前で 万が一にもニザエモン様が、金など出さぬと仰るなら赤っ恥。

そうならぬ為に先に到着して一万の行列で威圧して屈服させる積りなのでしょうね。」


「そんなところだろう。

それに これは軍勢だな、甲冑 槍 鉄砲で武装している者もいる。

しかし これから起こる事を思えは滑稽だ。

くくくくっ!」


含み笑いのダンザを見てフミの緊張も幾分和らいだようだ。


「此度はダンザ様は姿を現してはいけないのでしたね。

アキ様の勇姿を見られないのは さぞかし残念でしょうね。

うふふうふふ。」


「そりゃ残念さ。

しかしフミ殿も豪胆 楽しそうに笑っておられる。

ところで俺の大砲の飛距離の目算は、その目盛り付きの遠眼鏡で裏付けされたのかな?」


フミは角度計の付いた望遠鏡を覗いていた。


「はい、流石は百発億中のダンザ様です。

たった今行列はこちらからの大砲の射程圏に入りました。

ダンザ様あたくし以前から一つ気掛かりな事があるのですが。」


「フミ殿は今や我等が軍師、何でも気兼ねせず聞かれよ。」


「はい、あたくしが危惧するのは、

コウズケの国にいらっしゃるシジマ家の皆様の事です。

オアイ様の跡目争いは戦とならんばかりということでした。

まだお若いアキマサ様の御子息はさぞ御苦労なさったのではないでしょうか?」


「父君のアキマサ様を喪ったマサトラ様の事を思えば胸が痛む。

俺も気掛かりだが、今やコウズケの国はシジマ家の直轄地では無い。

親類筋のシモツケを治めるオオタ殿預かりとなり、

シジマ家の直轄地は配置換えにより中国地方一帯となっていたのだ。

ただマサトラ様を始めシジマ家の方々は、

西国に赴かれる際のアキマサ様の御言い付けにより

オオタ殿の庇護の元、コウズケのワタラセ渓谷の隠れ里に身を寄せておられる。

オオタ殿は我等が主君であったオアイ様とは直接は関係無く、今回は傍観を決め込んでおられる。」


「ではアキの国は本来ならシジマ家の領地なのですか?!」


「ああ、だからオアイ様家臣の諸大名が集いし最中に若様が現れたならどうなるか。

くくくくっ!」


「でもアキ様はそれを望んではおられないご様子。

そこから先が容易に予想出来ない、大乱世へと逆戻りのきっかけになりかねないと仰っておりました。」


「全ては若様の匙加減(さじかげん)にお任せする事になるが、

どちらに転んでも滑稽でたまらん!

かぁっはっはっはっはっ!」


「やっぱりあたくし侍女のふりをして見て来ます。」


「フミ殿暫しまたれよ!」


火の見櫓の梯子に手をかけたフミをダンザは慌てて呼び止めた。


「ああ!あたくし気が利きませんで。」


フミは額をぐいっとダンザに向けた。


「では遠慮無く、ドーマン。」


その額をダンザは人差し指で軽く突ついた。


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