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六角の花   作者: フミ
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ガラス窓の思い出

眠りに眠り昼過ぎだった。


「……まずいな…何時(なんどき)だ?…リヨウ アクヤおはよう。」


住まいの奥にある馬小屋で目を覚ましたアキヨリは、とりあえず目の前の二つの顔に朝の挨拶をした。


「ううっ、ろくに眠らず、走るだけ走り回され、暴れるだけ暴れさせられた疲れがのし掛かっていて体が言う事を聞かん。

とりあえず這ってでも顔を洗って鏡を見ねば。」


リヨウとアクヤを伴い、這うように炊事場の水桶に辿り着くとオタマの笑顔が迎えてくれた。


「アキおはよ。」


「うきゃうー。」


「あーあー。」


「オタマ トウカ リクノブおはよう。

皆はもう工房だろうか?

聞くのが恐ろしいが今 何時(なんどき)だ?

ああ、それとフミさんはどうしているだろうか?」


「もうお昼過ぎ。

アキが持って来てくれた土、ゲン嬉しそうにしてたよ。

今朝 ダンザとフジオカ来て、アキ疲れて起きないから今日はお休みしてって言ってた。

フミはダンザと出掛けて行った。」


「そうだった、大砲の砲弾の角度と飛距離の計算表を作ってくれると言っていた。

しかしその様な複雑な算術は聞いた試しが無い。

だがその様な計算表があれば大砲の扱いさえ覚えれば誰もが百発億中だ、頼もしい事この上無い。」


「アキも習いたいでしょ?

行って教えてもらったら?」


「ううむ、それよりも今日は行きたい所があるのだ。

オタマも行こう、いつも子守りで申し訳ないと思っていた、きっと気晴らしになる。」


「うん、どこか分からないけどきっと楽しい所。

すぐ用意する。」


オタマは両脇に赤ん坊を二つ抱え、自室に戻って行った。

アキヨリはそれを笑顔で見送り、水桶で顔を洗い、懐から鏡を取り出し。


「おはようリッカ。」


竹槍の痕がリッカに見えぬように斜めを向いて、とてもいい笑顔で鏡に向かい遅い朝の挨拶をした。


一時(いっとき)後 鍛冶屋の親父 ハセベ モリカネサダエモンは、自宅兼工房の表玄関前でアクヤの巨大さに腰を抜かしていた。


「なんじゃあこりゃあ!

いきなり日陰になったんで出て来てみたら、なんじゃあこりゃあ!」


「親父よく見ろよ馬だよ馬、名はアクヤというんだ。

あとこの娘はオタマ、一流の陶芸家だよ、でこれがオタマの息子リクノブ、それと俺の息子トウカ宜しく。」


アキヨリは馬上のオタマと、自分の胸に抱かれた二人の赤ん坊を紹介した。


「ふぁー、大将それで今日は何の用なんだい?

槍の代金が用意出来たのかい?」


「それが全く目処が立たない、もうしばらく待ってくれ。

今日は奥の倅(せがれ)さんの工房を貸して欲しくて来たんだ。」


「ふぁー、今は鍛冶屋の仕事が立て込んでるから、しばらく道楽は許してねえんで使ってねえから好きなだけ使えよ。」


「親父ぃ、勝手に使わせんじゃねえよ!」


工房の奥から金槌の音と共にモリカネ何たらの息子 カネタチジロウサブロウの声が聞こえてきた。


「笛の大将が来てんだよ!けち臭えこと言うんじゃねえ!」


「ああ、アキさんかい、なら構わねえや。

道具の使い方は分かるよな、忙しくて構ってやれねえから好きに使ってくれ。」


「ありがたい。」


鍛冶屋は鉄の熱した温度を赤熱した色で判断する為、工房の中は昼間であるが薄暗い。

様々な道具や治具が壁に掛けられているようだが、暗い為にオタマにはよく見えず、ただ金槌の音だけが響く鍛冶屋の工房は少々恐ろしく感じられた。

恐る恐る歩を進めると更にその奥の一室は明かり窓が多く設えてあり、中央に置かれた あちこちに焦げ跡のある木の机には、息を飲む程に美しい壺なのか花瓶なのか、縦長の青いガラスの器が置かれていた。


「アキもしかして これを作るの?

アキに出来るの?」


「こんな凄いのは出来ないよ。

今から作るのはもっと簡単で小さな物さ。

それで材料はこれだよ。」


アキヨリは懐から何か包みを取り出し机の上に置いた。

ジャリっと音がしたのでオタマは小石でも入っているのかと思ったが違うようだ。

ただ一つ確認出来たのはその包みは普段アキヨリの使っている青い絣模様(かすりもよう)の手ぬぐいだという事だった。

無造作に固結びに結ばれた手ぬぐいは中々解けず、脇差で切ってしまおうかとアキヨリが苛立つと、察したのか、手ぬぐいはスルリと解けた。


「ああ!」


手ぬぐいの中身を目にしたオタマに懐かしい光と色、そして匂いが蘇った。


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