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六角の花   作者: フミ
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お家に帰ろう

「後見人を気取っているわけではない。

俺にはフミさんを在るべき場所に無事に送り届ける責務があるのだ、万が一があったならニリカ様に顔向けが出来ぬ。」


それを聞いたフミは、揺れる小舟の上でスミトモをよじ登るように立ち上がり、水路より人の背丈程上の往来に居るマイと、目の前のアキヨリに交互に向かって言う。


「あたくしスミトモ様に送り届けていただきました在るべき場所に。

マイ様 アキ様 不躾なお願いを前以て陳謝いたします。

お願いします、あたくしをここに置いて下さいせ。」


「いいよ…二階にしばらく…誰も使ってない部屋あるから。

皆もきっと…反対しない。」


「ああああああああ!

それは俺の部屋!

まあ良い、それはそれでよい!

しかしフミさん、帰らずとも良いのか?

ニリカ様が申しておられたがその…なんだ…」


「あたくし天涯孤独でございます、たぶん…」


言い淀むアキヨリを遮るようにフミが告げると、丹田に力を入れ無理矢理に己を落ち着かせ、間髪いれずアキヨリは答えた。


「先程の申し出承知した、我が家の一員となられるが良い。」


小舟に向かい差し出されていたアキヨリの腕に一段と力が込められると同時だった。


「良かったなフミ、おやすみよ。」


フミがスミトモを振り返ると一瞬だけ眉尻の下がった笑顔が目に映り、その体はフワリと浮き上がり、アキヨリの腕へと導かれ柔らかく着地した。


「スミトモ様!」


フミはなぜか自分が、もぎ取られた果物になったような気になり、なっていた木に戻りたいような寂寥感(せきりょうかん)に襲われ、思わずスミトモの名を呼んだ。


「一つ言っとくよフミ、お前は毒なんかじゃないよ。

賢くて大食いの、只の子猫ちゃんよ。

忘れんなよ!

じゃあまた明日な、アキヨリ!マイ!フミ!」


「ああ、また明日だ!」


「おやすみ…スケコ…マシ…。」


「おやすみなさいませスミトモ様!」


スミトモは小舟の上げる水飛沫越しに、小さくなって行く手を振るフミをずっと見ていた。

小舟が一人分 水から浮き上がる部分が増えたのを感じてから寂寥感に襲われ、それから逃れたくて小舟を急がせたが、寂寥感に浸っていたくてフミの顔をずっと見ていた。


「フミも俺の手、握ってくれたよな。

ありがとよ!」


スミトモの呟きは水飛沫と同化して溶けて行き、フミからはもう水飛沫は見えなくなった。

水飛沫が見えなくなるとフミは、振っていた手を下ろしたくないのか手持ち無沙汰に額にあてていたが、諦めたように下ろし袖の中の巻物を取り出し、アキヨリの手を取り握らせた。


「アキ様はスミトモ様を誤解しておられます。

あたくしを大切にして下さいます事感謝しておりますが、これは必要ございませんでした。」


「ううむ、いつもならば必要なのだ。

俺とてスミトモの根幹にある情誼(じょうぎ)の厚さは承知しているが、辛き運命を生きて来たのだろう、無慈悲さも持ち合わせているのだ。

俺も人の事は言えんが…」


「いいえ、アキ様もスミトモ様も、とてもとてもお優しいお方です。

アキ様はスミトモ様にお訪ねにならなかったのですか?」


「何をだろうか?」


「その…スミトモ様の辛き運命についてでございます。」


「必要ない。

聞かせてくれるなら聞くが、スミトモは俺が心配していい人間ではない。

艱難辛苦を乗り越え、真っ当な稼業とは言えんが、広大な縄張りを持つ海賊の頭領になった誇りある男だ。

お互いに命を背中を預ける間柄だ。

それだけで俺達の友誼(ゆうぎ)は満たされている。

だから必要ないのだ。」


「あたくし胸が熱くなりました。

あの…あたくしにはお訪ねにはならないのですか?」


「同じ事。

その役目はスミトモに任せた。

俺のフミさんへの願いは心の平安。

俺の節介を満足させる事ではない。

フミさんのさっぱりした顔を見れたならそれで良い。」


「お気付きでしたのですね。」


「行こう、いささか疲れた、息子達の寝顔を見ながら眠りたい。」


「はい。」


フミはアキヨリの背中を見つめ呟く。


「スミトモ様もアキ様も、なんてお優しく魅力的なお方なんでしょう。

あたくしお二人同時に心惹かれてしまいました。

だってあたくし毒婦ですもの。」


ギンザブロウの率いるワシノミヤ組の造船所の隣には、引退した商船が部品や材木を再利用する為に集められた一角があった。

その内の八隻の大型船を住居に改装してスミトモと子分達は住んでいた。

スミトモは灯りの漏れる一隻の船底に取り付けられた開き扉を蹴飛ばした。


「おおい!野郎共今帰ったぞ!

皆揃ってるかよ?外に出てるヤツはいねえか?」


「帰って来るなりうるせえよ親分。

リュウキュウ屋はしばらく休みだから見ての通り皆揃ってるよ。」


スミトモは子分の一人がめんどくさそうに答えながら差し出した杯を受け取り、酒盛りの中心まで進み出ると一気に飲み干し決意表明した。


「良く聞けよ!俺はたった今から海賊を辞める!」


「ええええええええ!!」


一同どよめくが、まともに受け取る者、また始まったかと鼻歌交じりに受け流す者 半々といったところだった。


「じゃあ今度は何やるんだよ、アキヨリの家来にでもなるのか?

侍なんてカタッ苦しいのは俺ぁやだかんな!」


「誰が侍になんかなるって言ったよ。」


「じゃあ貿易か?親分言ってたよな。」


「いいや、それはもうちっと先の話よ。」


「だったらなんだよ!」


「大海賊よ!!」


スミトモの決意はおかしな方向に進んだようだ。

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