俺の罪あたくしの道
「なんだか俺の友達が失礼だったみたいだな。
アキヨリは自分じゃ気付いてないだろうし、フミも言わないだろうから俺が謝っておくよ。
フミが大変な時に馬鹿騒ぎしてごめんよ。」
「あはは、あはは、そんなスミトモ様が謝る事なんてありません、アキ様も同様です。
あたくしニリカ様と共にアキ様と関わり、そのお人柄に心酔しきっております。
あの…スミトモ様、一つお聞きしたいのですが。」
「いいよ、何でも聞いてくれよ。」
「何故スミトモ様は、あたくしがニリカ様でないと知りながら、初対面のあたくしにとても大切な事を打ち明けて下さったのですか?」
「ああそれね、一つはフミは誠実なヤツだと思ったって事。
もう一つはフミは弁天さんと同じものを見聞きしてたって事。
多分弁天さんは、もうフミの中にはいないから それはないと思うけど、
もしかしたらフミに話せば弁天さんに伝わるかも知れないと思ったのよ。」
「はい、おそらくニリカ様には伝わらないかと思われます。」
「でもいいのよ、フミが俺を知ってるんだ、こんな気分は初めてだよ、俺たまんないのよ。
なあフミ、俺も一つ聞いていいかい?
弁天さんは今どんな所にいるか分かるかい?」
「はい分かります、あたくしにはニリカ様の記憶が少なからず残っているようです。
暗く、とても熱く、時折 何者かの怨嗟の声がとぐろを巻く所です。」
「弁天さんはこの国に暮らす善人 悪人 好む 好まざる関係無く、人間全部の為にそんな所にいるんだよな…
さっきニザエモン親分のとこでも言ったけど、俺は自分と仲間の事しか考えてなかったよ。
顔も名前も知らないヤツなんか、死のうが生きようが関係無い。
どうせ人間なんか自分の事しか考えてないんだ、ろくな奴いない。
強いヤツが我が物顔で何でもかんでも自分のものにして、
弱いヤツは弱いヤツで、他人のものをコソ泥してやろうと隙を伺ってる。
でも違った、他人の為に必死になってるヤツを俺は何人も見て来たじゃないかよ!
たった一人でも良かったんだ、たった一人他人の為に生きてる人間に出会ったなら、人間は自分勝手な生き物じゃないって証拠になったんだ!
だけど弁天さんに会うまで気付けなかった。
いや、認められなかったんだよ!
アキヨリやアキマサは俺とは違う人間なんだって思い込んで、あいつらみたいに生きる事から逃げてたんだ。
アキマサが俺に教えてくれた、優れた能力を持って生まれたなら、自分の為だけにそれを使うのは罪だと。
その意味がやっと分かったよ、俺もアキヨリやアキマサみたいになりてえ!
弁天さんみたいになりてえ!
弁天さんを助けてえ!!
あったかい日差しの下に連れ出してえよ!!」
スミトモは両手を握りしめた、左手の親指は反り返り曲ったままだが、それを絵に描いて題名をつけるなら、もはや苦悩ではなく「決意」であった。
その手にフミの手が添えらた。
「あたくしもニリカ様のようになりたい。
あたくしニリカ様の残して下さった知識を使って、ニリカ様として皆様の役に立とうとしておりました。」
「そりゃすまなかったよ、俺が見抜いて御破算になっちまったよ。」
「いいえ!あたくしはあたくしとして皆様の力になります!
手前味噌になりますが少々算術の心得がございます。
そもそもヒデサトがあたくしに目を付けたのは、兄があたくしに算術の心得があると話してからだったそうです。
それ以来あたくしはあたくしの知識や能力を家族の命を奪った呪われたものと考えるようになり、生涯使わぬと決め込んでいました。
しかしそれではアキマサ様に叱られてしまいます。
あたくしはミアケ フミとして生きます!
その道はスミトモ様が作って下さったのです!」
「へへっ、照れくせえよ!」
スミトモは 照れ隠しにいい加減な釣竿を振った。
「今度は何が釣れるのでしょう?」
「でっ!でかいよ!
うわっ!ブリよブリ!」
例によってブリは瞬く間に切り身になってフミに献上された。
「美味しいー!美味しいー!」
スミトモはワンコ食いのフミを目を細め見つめた。
「兄ちゃん生きてるといいな。」
「望みは薄いと思います。
しかし全く無い訳ではありません、それは幸福な事です。
あれこれ思い悩むのは不毛です。
あたくしは兄に報いる為に皆様に尽力するだけです。」
「フミの言うとおりよ。」
それから先のスミトモの言葉は唇だけ動いて音にはならなかた。
「ニザエモン親分の所で見た 空の皿やらどんぶりやら、そんでその食べっぷり。
フミは母ちゃんそっくりだよ。」




