↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
六角の花   作者: フミ
PR
292/788

君が僕を知っている

「ナリカワ ヒデサトには会って無いんだよなフミ。」


以前一度だけスミトモはナリカワ ヒデサトを見かけた事があった。


イセ攻めの折、セイゲンジ家水軍を壊滅させたスミトモは「褒美褒美!」と喜び勇んで船を下りて、アキヨリと共に褒美をくれるアキマサの待つ、シジマ家本陣へと向かう途中であった。


顔に作り笑顔という造形物をくっつけた、傷や汚れや補修後の全く無く、これと言った特徴の全く無い、

前時代的な青い甲冑姿の五月人形が十数人のお供を連れて行くのに出会した。


傍目からも分かる上辺だけの挨拶を交わすアキヨリと五月人形は、スミトモには対照的に見えた。


アキヨリの赤い当世具足は、西洋の留め具や 最新の彫金技術を駆使した 最先端の自己主張と槍傷と弾痕の塊であった。


上辺だけの挨拶を終え五月人形の後ろ姿に呟いたアキヨリの言葉をスミトモは思い出していた。


「ナリカワ ヒデサト、あのツラ思い切りぶん殴ってやったらどれだけスッとするか!」


「おいおい、ナリカワは味方だろうよ、兵糧やら持って来てくれたんだろ?」


「人の思考の枠を十とすると、彼奴(きゃつ)は自己保身に十を使っておる。

おまけに家臣をわざわざ人前でこれみよがしに叱責する。


ヒデカツへの劣等感からか 自分より有能で知識のある者をいたぶる事でしか自分の価値を実感出来ない矮小(わいしょう)な男だ。


ヒデカツから聞いた話だが女性(にょしょう)においてもそうらしい。

戦乱で没落した武家の娘を妾(めかけ)とし集め、中には所在の定かで無い娘もいるそうだ。」


「殺しちまったって事かよ…」


スミトモの顔面にはアキヨリの言葉を耳にした時の、驚愕と怒りが綯(な)い交ぜになったものが蘇っていた。

それは薄闇の中でもフミに伝わった。


「こうして生きながらえております通り、あたくしヒデサトには会っておりません。

スミトモ様は御存知でしたのですね。

兄の士官も島流しの御赦免も全て嘘。

全ては貴人として躾けられ、尚且つ後腐れの無いあたくしをくびり殺し悦楽を得んが為の奸計。

偽の手紙の届いた翌日、あたくしを助けようと危険を冒し帰って来てくれた兄より語られました。


しかしミアケ家復興という怨霊に取り憑かれた父は 全く聞き耳を持たず、

兄を気が触れた親不孝者と罵り家宝の太刀を抜いて襲いかかったのです。

その太刀に止めに入った母が、母を助けようとした兄の太刀に父が…」


「フミもういいよ、フミの事はスミトモが知ってるからもういいよ。」


しかしフミは力強く拳を握り真上を向き、目を大きく見開き、震える唇は雄々しく語る。


「いいえ!まだスミトモ様はあたくしを存知てはおりません。

あたくしは手を引かれ兄とどこへとも無く逃げ惑いました。


間も無く日の本はナリカワの手に落ちる、どこへも逃げ場など無い、しかし兄は言いました。

シジマ アキヨリが生きていると噂で聞いたと、更にナリカワに対抗しているとも。


義人として知れ渡る彼の者を探し出し頼ったならば 必ず力になってくれる諦めるなと、あたくしを励まして下さいました。


しかし程なく追手に見つかり、あたくしを逃がす為に囮となった兄ともはぐれ、あたくしも虜となりました。


その時あたくしは決心したのです、あたくしの全てを奪い、その上あたくしの命まで喰らおうとするなら、あたくしは毒になろうと。

毒婦の前で急所を晒すならば、それ即ち命取りだと!


しかしあたくしの決心も、あたくしを捕まえた追手共々、アキ様の倒した塔によりぺっちゃんこになってしまいました。


しかも何が何だか分からずただ惚けていたあたくしの目の前を、

バカ笑いしながら走り去る裸足の山猿の様な男を御供の男二人は 、

雲を掴む思いで探していたシジマ アキヨリと呼ぶ始末。

もうあたくし何もかもどうでもよくなってしまい、大声で泣き笑いました。

そこにニリカ様が語りかけて下さったのです。

あたくしニリカ様があたくしの心の中に入って来て下さらなかったら、どうなっていたのでしょうか見当もつきません。


心の中でスミトモ様と同様に、あたくしはニリカ様にずっと手を握って頂いていたのですよ。」


真上を向いていたフミはスミトモに向き直った。

その笑顔は語った。


「スミトモはフミを知ってるよ。」


スミトモはそれを言葉にした。


「はい。」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。