息継ぎ
「あたくしもスミトモ様と同じで海で育ちました。
と申しましてもスミトモ様のようには船など操れません。
今思えば俗世間から遠く離れ、父と母と兄それと海や山に抱かれ、恵まれた環境であったのだと痛感しております。
しかし島に居た頃のあたくしは、祖父の遺して下さった書物や茶道具や調度品にばかり目が行っていて都の暮らしに憧れておりました。
そんなあたくしを見込んでくれたのか父は、貴人のしきたりや作法 教養を少々厳しく躾けて下さいました。
いつの日かミアケ家の再興をと、その時は立場のある方にあたくしを輿入れさせるつもりだったのです。」
「はっはーん、謎が解けたよ。」
スミトモが時折見せる笑顔は見る者が見れば軽薄とも取られかねない。
「謎ってなんでしょうか?」
「フミのおおらかだけど品のあるところよ。
街の娘みたいに気取ってないし、田舎の娘みたいに野暮ったくない。
一体どう育ったのか不思議だったよ。
話の腰を折ったね、続けてくれよ、ちっと息継ぎしたかったのよ。」
フミは父と母と兄がいたと言う、しかしフミを待つ者はいないとも言う。
スミトモは悲劇を予感して一呼吸したかったのだろう。
「息継ぎですか?」
「そう、俺は一つ息継ぎした、らしばらくは潜っていられるよ。」
勘の良いフミは息継ぎの意味を理解したようだ、一つ頷き話を続けた。
「はい…
ミアケ家の再興、それを予期させる出来事がありました。
アキの国そして山陰山陽の実質的な支配者となったナリカワ家から、兄を家臣として迎え入れたいとの申し出がありました。
場合によってはミアケ家の島流しの沙汰を撤回するとも。」
「負ければ賊軍、自動的に朝敵よ。
朝敵として島流しになったのだろうから、朝廷からの赦免状が無いと意味無いよ。
ミアケ家は名の知れた大名よ、ナリカワだって勝手に赦免なんかしたら後々面倒よ。」
「そうです、しかし父は何も疑いもせず、諸手を挙げて狂喜乱舞して兄を送り出しました。
祖父は八年前に亡くなりましたが、口を開けばミアケ家再興ミアケ家再興と、今際の際にも父の手を枯れ枝の様になった手で握り、ミアケ家の再興を果たせと言って息を引き取りました。
父は祖父に呪われていたのです。
兄がトミナリ城へと召し抱えられてからは、いつ兄から迎えが来るのかと四六時中何をするでも無く、落ち着かない様子で彼方此方をウロウロする毎日でした。
しかしそんな日々も長くは続かず、程なくして兄からの手紙が届きました。
トミナリ城 城主となったナリカワ ヒデサトが父と母そしてミアケ家所縁の者全てを迎えると。
そしてあたくしをヒデサトの側室として輿入れしたいと。」




