飛んでるジャパニーズメン
「落ちるぅ!!」
フミは固く目を閉じて、全身に力を込め硬直した。
目を閉じる直前に見たのは俯瞰からの水路だった。
ニザエモン邸の前を流れる水路は、幅六 間(約11m)あり、両岸は石垣と等間隔で植えられた柳の根で補強されている。
「落ちないよ。」
スミトモがそう言うと落下は止まり、今度は緩やかに上昇し横方向へ急速に移動しているようだった。
「目を開けてみなよフミ、面白いよ。」
「今あたくし達はどうなっているのですか?」
「見たらいいよ、そうしたらすぐに分かるよ。」
「いいいぃ…」
フミが変な気合いで己を励まし目を開けると、水路の上を飛んでいた。
「飛んでるぅ!」
「飛んでないよ、柳に鉤爪を引っ掛けて振り子になってるだけよ。
で、あれが俺の舟。」
スミトモは小舟に柔らかく着地するとフミを座らせた。
そして岸に等間隔に打ち込まれた杭に繋留していた縄を岸に降りる事なく、
器用に引いたり緩めたりを繰り返して外した。
その縄にも鉤爪が付いていた、杭に縄を縛っていたのではなく 鉤爪を引っ掛けていたのだった。
「その縄を木に引っ掛けて、しならせた力で飛んでいたのですね。
あたくしスミトモ様もアキ様のように術をお使いになるのかと思ったのです。」
「 それだけじゃ飛べないんだな、種明かしするよ。
内緒だからなフミ、誰にでも見せるって訳じゃないよ。」
スミトモがヒラヒラした派手な腰巻をたくし上げると、
一尺(約30cm)の頑丈そうな糸巻きが、これまた頑丈そうな革の帯に括り付けられていた。
「まずはこの短い縄の鉤爪を身近な物に引っ掛ける、いいね。」
スミトモの空中殺法 指南が始まった。
「はい、次は?」
「次に糸巻きの縄を投げて、良くしなりそうな木なんかに引っ掛け糸巻きを巻く。
糸巻きは弛む方に回らないように出来るよ。
そんで これでもかって巻いたら、最初に引っ掛けた鉤爪を蹴っ飛ばして外せば ビュンよ。」
「凄い!スミトモ様が考案したのですか?」
「いや違うよ、元々鉤爪付きの投げ縄は使ってたけど。
糸巻きを考えて作ってくれたのはアキヨリよ。
こんな感じで舟を操ってたら、懐かしいってさ。
なんでもリヨウの奴がヒョッコの時分、崖の中腹にある巣を鉤爪が付いた縄にぶら下がって覗いてたそうよ。」
スミトモは鉤爪縄を代わる代わる石垣やら柳の木に引っ掛けは外しを繰り返して、見る見る速度を上げて行った。
「わぁ!速い!速い!うわっ!」
「あまりはしゃぐと落っこちるよ。
海に出る迄はスミトモにしがみついてなよ。」
「え?海まで行くのですか?」
「あっという間よ。」




