カオスの庭
「昨日はマイ、今朝はニリカ様、そして今フジオカ。
タキやダンザには何度ぶちのめされたか定かではない。
何奴も此奴も手加減無しだ!」
天を仰ぎ、左頬に竹の節の跡をつけ、あやふやな意識の中アキヨリは思った。
彼の名誉の為付け加えると、頬についた竹の跡は彼の竹槍のものである。
フジオカの一撃を目では捉えられなかったが。
空気の動きを触感で、竹槍に込められた意思の塊を武人の第六感で捉え。
辛うじて既の所でフジオカの一撃を受け止めたのだが、軽々と弾き飛ばされ、自らの竹槍で顔面を強打したのだった。
「おおおおおお!」
観客席の一同から感嘆のどよめきが起こった。
「勝負ありですな、瞬く間の決着でしたが見応えのある一戦でございましたな。
思いの丈を一撃に込めたフジオカ殿と、それを真っ正面から受け止めたアキヨリ殿。
このニザエモン胸が熱くなりましたぞ。」
ニザエモンは感慨深そうに頷き、目に焼き付いた一連を、瞼を閉じ反芻している。
「すげえ!すげえぞフジオカ!
俺も負けてらんねえ!」
キリュウは興奮の絶頂で、フジオカの一撃を真似て、槍を持った形で素振りを繰り返した。
「フジオカ今の今迄 何故黙っていた!」
ダンザがやにわに立ち上がりフジオカへと歩みだした。
「ダンザ!アキヨリ様から一本取ったぞ!」
そのアキヨリは池のほとりで仰向けで倒れている。
「人の話を聞け!
それ程迄に思い悩んでいたなら、何故打ち明けてくれなかった、口惜しいぞ!」
「どうしても言えなかったあ!」
「だが言ったな、やっと言えたんだな!
俺も同じ気持ちだ!
堪え性の無い俺は直ぐに表に出すが、剛直なお前は口に出せずにいたのだろう。
だが俺はお前を哀れだとは思わん。
ただ俺もお前と同じ気持ちだ!」
「ダンザアアアアア!」
「もう何も言うな、鼻血を拭け、鼻血を拭いてその勇姿を皆に見てもらえ。」
ダンザはフジオカの肩を抱き、自慢の陣羽織の裾で鼻血を丹念に拭ってやった。
「皆々様方、勝者はこのフジオカ ヤスキヨで御座る!」
敗者は池のほとりで仰向けで倒れている。
「フジオカ!俺はもう我慢できねえ!
俺とも一本勝負してくれ!」
キリュウは駆け出し、池のほとりで仰向けになっている敗者の手から竹槍を取り上げ、下段に構え全身のバネを縮める体勢を取った。
「おお!願っても無いぞキリュウ!」
「アンドウ ダンザ、俺達も昨夕の決着をつけるぞ!
だがここで鉄砲は撃てん、相撲で勝負だ!」
「望むところだドウゼン!
ギンザブロウ殿 行司を頼む!」
「おおう、任せときな!」
「あははは!あははは!愉快 愉快!」
我が家の庭で繰り広げられる未曾有の大乱闘に、ニザエモンは手足を叩いて喜んだ。
「日没で幕引きではつまらぬな、リンタロウ篝火を用意しなさい。」
「はーいかしこまりましたー。」
奉公人のリンタロウもどこかで観戦していたのだろう、要領を得た返事が少し離れた所から聞こえて来た。
「やはり見ていたねリンタロウ。
ではジョスイ殿、既にアキヨリ殿とはお互いの見解を示し合っているのでしょうな。
名勝負を眺めながら聞く天才軍略家の必勝の策。
これは極上の時間と言うものですなぁ。」
「天才たぁ少々こそばゆいが、皆を待ってる間、若大将とは結構突っ込んだとこ迄 話を詰められた。
聞いてもらうぜ。」
逆巻くお祭り騒ぎの中、ニザエモンとジョスイの周りだけ、しんと落ち着いた青い雰囲気に変わった。
それぞれがそれぞれの目的にのめり込む中、フミは池のほとりで仰向けに倒れるアキヨリを見て焦り。
皆を見回し苛立っていた。
「アキ様が倒れているのに皆どういう神経しているの?!」
荒れ狂う庭の様子に躊躇していたが、意を決してアキヨリの元へ駆け寄ろうとした時、池のほとりで仰向けは、むくりと起き上がった。
「ああ、良かった…」
フミが胸を撫で下ろすと、耳の辺りに何かが近づき、触れてはいないが触れた感触を受けた。
「フミついておいでよ。」
殆ど音を出さず、唇の動きだけで語りかけるスミトモの誘いに、フミの心の臓は早鐘と化した。




