フジオカ破裂
「俺は以前、リッカを連れ去ろうと現れた義母上に、たった一人の苦役に支えられた人の世など滅びてしまえと言った。
そんな事を言っておきながら、俺はスミトモの言う通り自分一人で抱え込もうとする思い癖があるようだ。
義父上の墓標の高台で、共に命を掛けて臨むと誓ったのにな、ダンザ、キリュウすまなかったな。
最後に皆に頼みがある、これからも至らぬ俺を導いてくれ。」
アキヨリの報告は、そう締めくくられた。
ニリカの個人的な経緯は省かれたが、ヨシツネとの死闘、タキの陶像に込められたソヤカの葛藤、ゴクラクサイから託された大計、ニリカとの出会い別れ、それらがありのままに語られた。
「弁天さんは今もホウライ山にいるんだな?」
直ぐには咀嚼出来ない話を、何とか納得出来るまで噛み砕いているのか、誰も口を開かぬ中、スミトモの口からその問いは絞り出された。
アキヨリは一つだけ頷いた。
「俺は生まれて今迄 自分と仲間の事しか考えてなかったよ…」
そう言うとスミトモも口を閉ざした。
グギ グキ グキ グキ
皆の沈黙が故にことさら響く音があった。
巨大な石臼でも回っているのかと、隣のフジオカを見やったダンザは色めき立った。
そこには歯を食いしばる鬼瓦があった。
「落ち着け、フジオカ!
共にアキの国へ行けなかったのは口惜しいだろうが、仕方ないだろう。
若様とて、この様な出来事に見舞われるとは思ってはいなかったのだ。」
「アキヨリ様にお供できたお前が言うか、この鉄砲バカ…
羨ましくなど無いぞ…拙者は信頼され留守を預かったのだ…
グキ グキ グキ グキ…」
(鉄砲バカ)そう言われて引き下がる様なダンザでは無いが、曖昧な笑みを浮かべ、小刻みに頷き自分の座る椅子ごと一歩下がった。
「おめえを差し置いてアキの国へ行ったのは、何か気が引けてたんだ、すまなかったよ。
だけど鉄砲バカはねえよ。
なあ落ち着けよフジオカ。」
キリュウも冷や汗をたらしフジオカをなだめた。
「お前も同じだ、このシャクレ…
グキ グキ グキ グキ…」
(シャクレ)そう言われて引き下がる様なキリュウでは無いが、小刻みに目配せをアキヨリに送った。
送られた方は左右にブレながら、円卓に手を付いて立ち上がった。
「なあフジオカ、お前に茶碗を焼いてやろう。
銭が無い故 槍だの具足やらは くれてやれぬが、ホウライ山の土を持ち帰った、これで茶碗を焼いてやる。
俺の焼いた茶碗など、まだ多くは出回っておらん、自慢出来るぞ。
いささか手前味噌か?はは、はははは。」
「アキヨリ様の焼いた茶碗?!」
「そうだ、それとも茶器ではなく酒器がよいか?ん?ん?」
「頂けるのは明日で御座るか?」
「そんな直ぐには出来ん、轆轤で形を作り、乾燥させ焼いて、釉薬をかけてまた焼いて…ひと月待ってくれ、な、なっ。」
「待てぇぇん!ひと月も待っていたら頭がおかしくなってしまいまする!
手合わせを!槍の稽古をつけて下され!
今直ぐ!今直ぐ!!」
「無理を言うな、ヘイクロウの報告がまだ済んでいないのだぞ。
その後は皆で今後の方針を打ち合わせねばならぬ。」
「庭の竹を二本、フジオカ殿に差し上げましょうかな。」
ニザエモンが人差し指と中指を立て微笑む。
「よ、余計な…いや、勿体無い事を仰せに!」
口を滑らせるアキヨリにヘイクロウも続く。
「フジオカ殿、拙者の晴れ舞台…
いや、話を聞いてからでも良いでは無いか。
チクゴの大名オオトモはイスパニアの兵を自国の隠れ里に囲っておるのだぞ!
イスパニアはアキマサ殿の仇ではないのか?!」
「何だと!!おめおめ生き残った このフジオカにアキマサ様の仇討ちの機が与えられたのか!
あああああああああああ!
アキヨリ様!誇張抜きでじっとしていたら、臓腑が破裂してしまいまする!
何卒!今直ぐ!」
「ヘイクロウめ余計な事を…
ああもう分かった!
ニザエモン殿、竹を頂きますぞ。」
アキヨリは庭に面した扉を開けると太刀を抜いた。
「フジオカどの竹が良いか?!」
「その一番太いやつ!」




