進まぬ話
「はっ、では先ず此度の旅の動機は我が妻リッカを救い出す手掛かりを、新たに習得した千里眼で得ようとの私的なものであった事を詫びたい。
申し訳御座らん。」
そこにニザエモンが口を挟む。
「アキヨリ殿、暫く。
いきなり話の腰を折るようですまぬが。
私の問うたフミさんの身許はフミさんの話では語られなんだ。
腹に一物ある人間では到底出来ぬ、真摯な態度 物腰から信用の出来るお方とは見て取れる。
さらに家柄、血筋に拘る私ではないが。
どうだろうアキヨリ殿から知っている範囲、話せる範囲で構わぬから。
どこにお住まいであったか、どのような務めに従事しておられるか位は聞いておきたいのだか。」
アキヨリは生暖かい笑顔で凍り付き、無駄に回る頭脳を蹴轆轤の上に乗せて、右足で蹴り左足で手繰り回し始めた。
「疑っておられる。
俺が只 夜通し女と享楽にふけっていたと疑っておられる。
いや、そうでは無い、あの表情は楽しんでいるのだ!
フミさんを信用していて、俺がフミさんの素性を知らぬと分かっていて、フミさんの素性を知らぬ俺が問い質され慌てふためくのを楽しんでいるのだ!
何と意地の悪い!
いや、これは普段の俺か?
いやいや反省は後回しだ何とかこの場を切り抜けねば。」
進退窮まるアキヨリに、やおらダンザの人差し指と中指の二本が突き付けられた。
「差し出がましいが俺からお答えいたす。
フミ殿はかのイズモのオオクニヌシの末裔である。
ホウライ山に火の神を封じたオオクニヌシが末裔であるフミ殿は、リッカ様達 現代の御山の守人を監督し手助けしておられる。
オオクニヌシの血筋などと聞けば、その様な太古の血筋が続いているのかと、皆は荒唐無稽に感じよう。
俺もそうで御座った。
若様がどう話せば良いかと躊躇しておられるのが、焦れったくなり、口を挟み申した。
許されよニザエモン殿。」
(若様これでよろしいか?)
ダンザの人差し指と中指はそう語った。
(流石ダンザ上々だ、助かった。)
アキヨリは人差し指と中指で答えた。
その二本の指はシジマ家での他人に悟られず意思を疎通する為の合図であった。
二本なら良し、三本なら悪し。
それは凶事を知らせる三本狼煙にも見て取れる。
(あたくしもそれでよろしいですわ。)
感の良いフミの人差し指と中指はアキヨリの臀部を突ついた。
「ほほう!
オオクニヌシの尊の流れを汲むお方とは驚きですな。
ヤマト朝廷の帝の様にしっかりとした系図なりあるのでしょうかな?
いやいや血筋など気にせずと申したそばから。
しかし気品と芯の強さはひしひしと伝わってまいります。
納得致しました。
ではアキヨリ殿、引き続いて旅の報告を。」
(良き家臣に恵まれ助けられましたな。)
ニザエモンの人差し指と中指はそう言っていた。
アキヨリは再び仰け反り、凍り付く。
「全てお見通しで、全て飲み込みになった。
何という御器量であるか。
しかしキリュウの奴の間抜け面は何だ。
ダンザの話に何の疑問も持っていないのか?
ダンザが上手く誤魔化してくれたのを分かった上での間抜け面か?
いやそれはあるまい、始めから良く理解していないのだな。」
「アキヨリ殿、如何しましたかな?」
「はっ、あの、その、ああ、あれだ。
まずアキの国に到着した我等はオンケイ寺へと向かい申した。
オンケイ寺の五重塔に登れば、リッカが囚われし場所を目にする事が出来るのではとの算段で御座ったが。
それよりも先ず巨大な塔が聳え立っておりました。」
アキヨリはオンケイ寺の、兄であり主君であるアキマサやシジマ家、家臣の菩提については語る事は無かった。
語れば目の前に居る、菩提を築いたジョスイに居並ぶ一同の前で、改めて礼を言わねばならない。
それにはまだ時を要するようだ。
「塔?!そりゃどんな創りで、どれほどでかかったんですかい?!」
素っ頓狂な声はギンザブロウのものだった
「あれ?ギンザブロウ殿いつからそこにいらした?」
その問いに答えたのは義弟ハンシロウ
「あはっはっはー!
アキヨリ殿、気付かなかったんですかい?
兄貴なら最初からいやしたよ。
ただフミさんの顔見たまんま、目ん玉おっ広げて口開けてたんでさ。」
「余計な事、言うんじゃねえクソシロウ!
あの…フミさん昨晩とは打って変わって その、何だ…
「若大将、一ついいか?」
おいらがまだ喋っているん…まあいいや…」
「ホウライ山に住んでたおめえが、そんなでけえ物に気付いていなかったってな、そりゃ普通見えねえんだな。
見えねえ仕掛けは封神壇だけじゃねえのか?!」
「あー、ん、ん、度重なる横槍でどこまで話したか分からなくなった。
順を追って話すと、また厄介な事になりそうだ。
太さは半径で八間、高さは四十間、瀬戸物で出来た塔で御座った。
作りしは我が義理の父シラセ ナガヨリ、ゴクラクサイと言った方が我等の世代には分かり易いだろうか?」




