フミは照れ屋さん
「お待ち下されニザエモン殿。」
「何かな?アキヨリ殿。」
「こちらの娘さん、フミさんと申すのですが、退室せずともよろしいのですか?」
「アキヨリ殿は昨晩、その御綺麗なフミさんと夜通しはしゃぎ回っていた御様子。
まさか只の御綺麗な娘様ではありますまいな?
私への報告を後回しにする位に大切な、部外者と呼ぶに憚られるお方なのでしょうな。」
兄アキマサとは異質で柔らかな体を装ってはいるが、同等の威厳と威圧である。
「申し訳御座いませぬ。
確かに俺にとって、いや日の本にとって大切な御仁で御座ったのですが。」
「御座ったと申されたか?
それでは今は?」
「ううむ、何と申し上げれば良いやら…」
「ニザエモンさま、それは わたくしから申し上げます!」
フミが立ち上がり言った。
鼻や口の辺りでいい加減に鳴らされた声では無かった。
腹から力を込めて発した、理性が芯に通った凛とした声だった。
ニザエモンと向き合っていたアキヨリは、その声を背中で聞いた。
先程との変わり様にハッとなってふりむくと、そこには顎を引き、背筋に一本物差しを通したかの様な、これまた凛とした立ち姿のフミがいた。
只アキヨリの後頭部にはフミの吐き出した飯粒がまばらに着いていた。
「申し遅れました、ミアケ フミと申します。」
「おお!大王、名を思い出されたか!」
ダンザが弾んだ声で言うと、フミは曖昧に頷き話を続けた。
「この度はあたくしは、皆様の御仲間で御座います
アキヨリ様
ダンザエモン様
キリュウ様
がアキの国に御訪問の折、大変お世話になり助けて頂きました。
改めて御礼申し上げます。
そして皆様の前に現れました理由はと申し上げますと、厚かましくもお力添えの嘆願に参った次第で御座います。
皆様はアキの国ホウライ山に纏わる、アキヨリ様が立ち向かっておられる因縁については御存知でしょうか?」
フミは一同の一人一人と目を合わせていった。
フミと目が合うと皆力強く頷いた。
そしてフミは最後にサカイに昨日到着したばかりであろうドウゼンを見つめた。
ドウゼンは言う。
「ミアケ フミ、昨夕 アンドウ ダンザに聞いた、大体の事は知っている。」
「あたくしは憎むべき、あの因縁を断ち切りたいのです。
今もホウライにて
自分の人生を奪われ、
人知れず涙を流し、
大切な人との絆を引き裂かれ、
耐え難い苦痛と苦しみを強いられている、アキヨリ様の奥方リッカ様達、御山の巫女に代わり申し上げます。
ナリカワ家からアキの国を取り戻し、太古よりホウライ山に渦巻く怨嗟を解放するためにお力添え下さい!
命を懸けなければ成し遂げられはしないでしょう。
ですが、あたくしは皆様の命に見合うものなどは持ち合わせはおりません。
厚かましいのは重々承知しております。
お願い致します、皆様がアキヨリ様と力を合わせてたなら必ず成し遂げて下さいます。
お願い致します!お願い致します!」
フミは何度も何度も深く深く頭を下げて懇願した。
「フミさん 其方その様に思ってくれていたのか。」
「アキ様 ニリカ様はずっとずっと自棄になっていたあたくしに励ましの御言葉を下さっていたのです。
今度はあたくしがニリカ様の力になる番です。」
「元より!!」
その声でギヤマンの窓がビリビリと震えた。
「元よりこのダンザ若様に命を預けておる。
頼まれるまでも無い!」
「俺もだぜ!
もう一度アキヨリ殿の義母上さんに会って聞くんだ!
本当はどうしたいのかってな!」
ホウライ山での出来事はダンザとキリュウの心をいきり立たせ続けているようだ。
「拙者もだ!
今度こそアキヨリ様の盾となり、奥方様を御救いいたぁす!」
フジオカの鼻息は自らを少し仰け反らせた。
「俺の一族の因縁でもある。
やぶさかじゃねえよ。」
いつに無く言葉少ななジョスイは、突然 真摯に懇願したフミに心打たれたようだ。
「スミトモはあんたの味方だよ。
もっとも銭は貰うけどな。」
スミトモの笑顔はフミの心に安心をもたらした。
「俺は傭兵だ!
俺の力を借りたければ契約をしろ!」
「何を差し上げればドウゼン様は契約を交わして頂けるのでしょうか。
先程申し上げた通りあたくしには何も…」
「腹の底からの礼の言葉も無いと言うかミアケ フミ!」
「ありがとうございますドウゼン様!」
「満足した!
俺の一族が末長く暮らせる領地はシジマ アキヨリから貰う。」
ドウゼンは満足したようだ。
「ミクリヤは協力いたしかねますな。
サカイを守る為の協力は惜しみませぬが、それより先はアキヨリ殿の仕事。
手を貸し金を貸したなら文字通り貸しを作る事になり、口も出さなければならなくなる。
商人が政に口を出すのは健全な社会とは言えぬもの。
アキヨリ殿、ホウライ山の一件は其方がアキの国のみならず、
ビゼン、ビッチュウ、ビンゴ、ハリマのセトウチ一帯をシジマ家に取り戻し、その国力で成し遂げなさい。」
「畏まって御座る!」
「うん、うん、それではアキヨリ殿、此度の旅の報告を願いましょうかな。」




