見上げた夜空に教訓という名の星座
「もう動けぬか?」
「見ての通りの有様で御座る」
アキヨリの目には夜空のみ映る
いつもなら無意識に星座を目で追うのだがそれさえも億劫だった
「無茶を申してすまなかったな
しかし嬉しかったぞ」
「それは何よりですがあまり遠くへ行かれぬよう」
オオクニヌシの声は段々に遠ざかりつつあった
「やはりお前は朕をどこか童のように思うておる
いらぬ心配であ
ところでアキヨリよ」
ギギィ ギィ
アキヨリはオオクニヌシの呼びかけと木の軋む音を同時に聞いた
「何でしょうか?
もしや大王 桟橋の上まで行っておられるか
落ちても知りませぬぞ」
「落ちはせんわい
アキヨリよ朕の昔話から何か得るものはあったかえ?」
「あったも何も訓戒という九鼎大呂を得申した」
「仰々しいのう
ならば九鼎なり大呂なりを具体的に申してみよ」
「先ずは渡来人達が大王の集落を去った因果より
不安と恐怖は人を狂わすという教訓です
信じるべきを信じぬは味方を敵とし更なる危機に見舞われ申す」
「うむ では信じられる人間とはいかなる者であ?」
「先ずは他者の心を理解する者です
正確には他者の心など理解出来る筈は無く
それに挑べは必ず己の心身に痛みを伴い申す
それ即ち他者へのいたわり
信じるに値いたす
だが条件があり申す
他者の心を理解する者は二つの部類に分かれ申す
一つはただひたすらに心を重ね合わせようとする者
無論これは信じてよろしかろう
だが信じられぬはもう一つの部類
他者の心を理解した上で利用しようとする者です
自分の都合だけに囚われ他者の心になど無頓着な者は論外といたす」
「うむ そこまで分かっておるなら心配無かろう
だがお前が窮地に陥ったなら真贋見極める力も衰えよう
その時こそお前の申した今の言葉 己自身で思い出すのだぞ
ではまた一つ問う
恐怖に囚われ進むべき道を見失い
猖獗を極め人々に害を及ぼす者共に出会したならどう処するかえ?」
「むううっ!むううううっ!
ううううううっ!
よくよく話し合ってなどと軽々しく申せはいたしませぬ
一人の人間が相手なら対処する手段もありましょうが
恐怖に支配された人の群れから恐怖を取り除く術など見当がつかぬ
武力を以って威圧すれば火に油を注ぐ様なものであるし
群衆の心理とは修正の効かぬもの
和を以って対話したとしても耳を貸すとは思えませぬ
それどころか丸腰で挑まねばならぬ故 使者の命を危険に晒しまする
万が一の場合 皆それに見合った報復をせぬままでは収まりがつかず
遺恨が遺恨を呼ぶ泥沼となりましょう
今の俺には打ち滅ぼす以外に手立てはありませぬ
だが思いもよらなぬ事がきっかけになり事態の打開に繋がる場合もありまする
些細な事柄も見逃さず事に当たるとしかお答えできませぬ」
「うむ うむ それで良い
一つ付け加えると情を以ってしか人の心を動かせはせぬが
利が道を拓く場合もある
お前の申す通り注意深く事に当たる事が悲劇を避ける唯一の手段であ
その原動力となるのは希望だという事も忘れるでないぞ
それでは朕の昔話から他に得たものは何であ?」
「次に挙げる訓は大王が鉄を得た代償に故郷であり生きる糧であった森を失った事から
人は何かを得ればそれに見合ったものを失うという事です」
「うむ よくよく噛み砕いて己がものとしてくれたようであるな
次は朕から言って聞かせるから良く聞くのだぞ」




