あなたの馬になりたい
横たわる つっかえ棒の一本はダンザに踏みつけられていた
他の三本は勢い良く吹っ飛び店内の卓やら
無理矢理 甲羅を着せられ海亀へと変貌を遂げさせられた陶器のタヌキやらを破壊したが
その一本だけはその暴威を振るう事無くダンザの回し蹴りに否され地べたを這いずりもがくところを踏みつけられたのだった
やや足の裏がじんわり疼き
やや得意顔のダンザ
「ギンザブロウ殿 少々大袈裟では御座らぬか?
酔うてはいてもここに集いしは皆歴々の兵揃い
逃げろなどと申されずとも避ける躱すは朝飯前でござろらる」
日本人の美意識は左右非対称 未完成 不完全を良しとする
つっかえ棒という猛獣を格好良く仕留めはしたが呂律の回らない酔っ払いの様は
「うふふ
ダンちゃん言えてないよ」
腰を抜かしてダンザに抱えられた女給の緊張を解いたようだ
しかしギンザブロウの緊張感というか緊急度は最高潮のようだ
「そんなこたぁ分かってらぁ!
だけど あんたらがどんだけ強かろうが天井が落ちて来りゃあ ぺっちゃんこだろうがよぅ!」
「なんだって?!
若様の蹴りがいくら物凄まじくとも蹴っ飛ばした位で柱が吹っ飛ぶ様な有様で酒場などやるな!」
「普通じゃ外れねえよ!
順序良く二方から力をかけねえと外れねえ様に木組みしてあんだよ
他の四本が外れちまったのも とんでもねえ偶然だよ!
全くアキヨリさんなんだってあんたやる事なす事 突拍子もねえんだよ
あれ?!いねえ!
もう逃げやがった!
ああもう そんなこたぁどうでもいい
ぽやっとしてねえでみんな逃げろぉい!」
「うわああああああ!」
「逃げろおおお!」
「乞食小屋が潰れるぞおお!」
ワシノミヤ組の職人 坂東武者 海賊
皆危機にあっては柔軟であり常識に囚われ無い乱世の人間である
出入り口から出て行ったのは先程腰を抜かしたクスという名の女給を抱えたダンザだけで
近くの窓から飛び出す者が殆どで
フジオカなどは自慢の突進力で壁をぶち破って
ワタワタ慌てるばかりの女給を二人両脇に抱え脱出して行った
瞬く間にギンザブロウは一人取り残された
「誰だぁ今乞食小屋つったやつぁ!
あれ…
これ以上天井が落ちても来ねえし柱も外れ無えな
五年の間に材木が締まって梁の剛性が上手い具合になったのか?
やっぱりおいらの案は間違って無かったんだ!
柱なんてもう必要無えぜ!」
バキッ バキッ バキッ
ギンザブロウはもう柱は必要無いと手近の柱を一本 二本と蹴っ飛ばして外して行ったが三本目を蹴り飛ばすと急に怖くなりやめた
その頃オオクニヌシはめまぐるしく変化する景色と浮遊感に先程の舞の恍惚感を募らせていた
「早いのう!早いのう!アキヨリ!
朕を抱えておらなんだら馬より早いのでは無いかえ?」
アキヨリの胸の前に抱えられ髪をなびかせるオオクニヌシは上機嫌である
「流石にそれはありますまい
我が愛馬アクヤは一夜にて千里を駆けまする」
「大袈裟な事を申すな
しかしさぞかし立派な馬なのだろうな
アキヨリよ今しばらく朕の馬になって貰うぞえ」
「あははははっ!
ならば大王 次はどこへ向かいましょうか?」
「お前の住む所 継いでフジオカ達の住む所
ギンザブロウの工場も見てみたい
それとお前達が力を合わせ普請しておると言う貯水池とやらもであ!」
「仰せのままに!」




