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六角の花   作者: フミ
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264/788

弁天さん

リュウキュウ屋店内の客五十余名の目は

赤く塗られた店の出入り口である開き扉に向けられた

しかし彼等の目にしたのは彼等の予想した気の毒な心理状態の女では無くよく見知った顔であった


「只今戻った

此度は私事で重役を仰せつかる身ながら長い暇を貰い皆には迷惑をかけてすまなかった」


そこには誰に言うでも無く広い店内に向かい頭を下げ

後ろ手に何か隠したアキヨリがいた


後ろ手に隠した何かは出入り口の両脇に飾られた竹と稲わらで作られたヤシの木を揺らし彼の前に進み出て憤慨を露わにした


「アキヨリ!お前何を良く出来た挨拶をしておるか!

戦の様だなどと朕を焚き付けたのはお前であろう!

これでは朕が馬鹿の様ではないか

お前も得意の口上で名乗らんか!」


「あの…あれだ 道中走って来たせいか酔いが覚めてしまいまして…」


ガタッ!


「アキヨリ様!おにょにょ」


喜び勇んだフジオカが座っていた籐を編んで作られた椅子を弾き飛ばし立ち上がり

ロクに何と言おうかとも考えずに主君の名を呼んで

坂東武者達が陣取る店の隅から駆け寄って来た


「フジオカ!

元気そうで何よりだ面倒をかけたな

俺がいない間に困った事は無かったか?

皆に変わりはないか?」


アキヨリはフジオカの両肩を乱暴気味に両手の平で叩き最後に両頬を潰し気味に包んだ


「勿体無う御座る!

我等の事などよりアキヨリ様は怪我などなされなんだか?

お見受けしたところ何やら凄味を上乗せなさったご様子

もしやまた危うき道を御自身で進んで行ったのではありますまいな?!」


「あはは

まあ なんだ いろいろあった

明日皆の前でゆっくり話して聞かせる

もう一度問うぞ皆に変わりはないか?」


「拙者も含め皆馬鹿で御座る故 風邪一つひいておりませぬ

困った事と言えば一つ御座る

アキヨリ様が拙者を差し置いてダンザとキリュウを連れて行かれたので口惜しいやら遣る瀬無いやら」


「それはすまなかった

俺も悩んだのだ

だがお前を連れて行ってしまえば皆好き放題やりたい放題の野放しになってしまうからな」


「アキヨリ様の信頼故の置いてきぼりと受け取り申す

で そのお美しい御方は?」


フジオカは話に割って入ってしまったせいか

不貞腐れて稲わらをむしるオオクニヌシに気付かれないように目をやった


「おいらもそれが気になってた

アキヨリさん御無事なお戻りで安心しやした

で そのベッピンさんは?」


ギンザブロウの手にした酒の注がれた杯はアキヨリに差し出された


「かたじけないギンザブロウ殿

度々留守にいたした許されよ

杯と言えば其方との誓いの割れ杯で命を拾った

重ね重ね礼を言わせもらう」


杯を煽るアキヨリは二人の痛い様な視線に中々酒が喉を通らない


「ギンザブロウ殿もフジオカも

先程御自身が名乗られたではないか

イズモのオオクニヌシ様であると」


「からかっちゃいけねえ

一つ確認しておきやすぜ

アキヨリさんの可愛い人じゃ無えんですね?」


「畏れ多い 言うなれば我が師とも言える御仁だ」


「アキヨリさんの師匠?!

話し振りやら普通じゃ無えとは思ってんだが

まさか公家の御息女様で?!」


「もっと位の上の御方だ」


「こ…皇族…

いや 怖気づくんじゃねえ

アキヨリさん おいら今夜はこの人と飲みてえ

構いやせんね?!」


「御本人に聞かれよ」


「うっしゃぁ!ほぁああ!」


変な雄叫びで自分を鼓舞するギンザブロウがそっぽを向くオオクニヌシの視界に入って行った


「今夜はこの汚ねえ店に御足運び下さって光栄で御座んす!

ウジガワ ギンザブロウと申しやす

ワシノミヤ組ってのを仕切ってるケチな大工で御座んす

御見知りおき下せえ」


ギンザブロウの一言一言にオオクニヌシは機嫌を取り戻して行ったようだ

口上が終わると満面の笑みでそっぽを向いて店内に背を向けた状態から正面を向き


「アキヨリから聞いておるぞ

この店の主人でもあるのであったな

オオクニヌシであ」


オオクニヌシの笑顔は春風の如く店内に吹き渡り春風はどよめきを誘った

だが一人別の反応を示した男がいた

トバ スミトモはオオクニヌシが店内に入ってから

これでもかと前のめりの姿勢のまま硬直していた

彼の反応とはどよめきでは無く確信だった


「弁天さんが来たよぉぉぉぉぉ!!」


スミトモはアキヨリが帰って来た事になど気付いていなかった

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