侍って出陣ってなると興奮して何だかわかんなくなっちゃうのかねえ
「顔色が優れませぬな大王
もしや帯がきつ過ぎるのではありませぬか?
折角の料理が胃に落ちませぬぞ
召し上がっていただく間だけでも少し緩めては如何か
なあ女将」
アキヨリの指摘に女将はほんの少し慌てた様子を見せた
「あら大王様きつう御座いましたか?」
「いんや 全くきつくなど無い
アキヨリよ朕は童ではない
きつければきついと自分で申すわい
さあ食べようぞ
待ちくたびれて さぞ腹を空かせたであろう?」
そう言うとオオクニヌシはアキヨリと差し向かいに設えられた善に座り
徳利をアキヨリに差し出した
「大王についで頂くとは恐縮いたす
では大王も」
二人が杯を酌み交わすと
「ごゆるりと」
女将は話し相手の娘を伴い部屋を後にした
「現代の酒はお口に合いますかな?」
「甘露でぁ」
オオクニヌシは満面の笑みである
「料理の方は如何でしょうか?」
「これ程多くの色とりどりの小皿で目がチカチカする程であ
素材の原形が分からぬ程細工がしてあり
何からこさえたか分からぬ程だが
口に入れるとありありと分かる
美味いのう 美味いのう」
「焼き味噌は如何でしょう
船中お勧めした折はしかめっ面でしたが慣れましたかな味噌は」
「始めは糞かと思ったが大豆と米でこさえたと分かってからは虜であ
美味いのう 美味いのう」
ご機嫌で次々に料理を平らげるオオクニであったが
空になった黒光りする見事な漆塗りの皿を見つめたまま
突然箸を進める手を止めてしまった
「大王やはり胃がふくれたなら帯が苦しゅうございますか?」
その問いはオオクニヌシの耳には入っていない様子だった
「アキヨリよ手鏡など持ち合わせはおらぬであろう?」
「ございますよ」
「はへっ?」
「俺が手鏡を持っているなど意外でしょうな
見ての通り身なりなどあまり気にはしませんが
リッカとの約束を守る為なのです
別れ際リッカにドーマンの術を俺の眉間にかけさせ
俺の見る物全てをリッカも見ていてくれるようしたのです
だがそれでは俺の顔が見えぬと一日一回は鏡を見るといった約束でして」
「またリッカ…」
「何か仰せか?」
「早う貸せと言ったのであ!
ほれ 早う!」
オオクニヌシはアキヨリの懐から手鏡が出るか出ないかというところをひったくったが
自分の顔が映るそれを覗く所作はやけに慎重であり躊躇いがちであった
「まさかこれ程に…」
真鍮製の鏡がオオクニヌシの手から落ち
畳の上でゴトリと音を立てた
「大王どうなさった?!」
明らかに蒼白なオオクニヌシの顔にアキヨリは色めき立ち
震える手を思わず握りしめた
「僭越ながら俺は大王に
ダンザやフジオカ達 古参の家臣や
ゲン達家族と同じ程に親愛の情を抱いております
その御心につかえた何か話しては頂けませぬか」
「もう少しだけ…」
「もう少しとは?」
「ぬうぅぅぅ!にぃやぁぁぁぁ!!」
オオクニはアキヨリを弾き飛ばし
膳に残った料理を口に皿をあてがい流し込む様に食べ始めた
「なんと!
大王ともあろうお方が無作法ですぞ
しかしこれが一番美味い食い方
ならば俺も!」
アキヨリも犬の様に食い荒らし
瞬く間に全ての食器は空になった
「アキヨリ!」
「はっ!」
「人がいっぱいいる所!」
「はっ?」
「スミトモとやらがいる酒場は多勢のお前の仲間が集まるのではないかえ?!」
「はっ!今の刻限ならば皆集まっておるかと
しかしあの荒くれ者共が今の大王を目にしたなら そりゃもう大騒ぎですぞ」
「それが目的であ!
荒くれ者 ならず者 何おかいわんや
朕には国士無双のツワモノ シジマ アキヨリがついているのであ!」
「戦に赴く様な心持ちになって参りましたな
大王 出陣の号令を!」
「しゅつぢぃぃぃぃん!!」




