アキヨリさんには内緒です
シラセ マイには守るべきものが一つ
それは家族
血の繋がらない兄とも弟とも姉とも妹とも定からぬ六人の陶芸家達
彼女の中ではシジマ アキヨリはシラセ アキヨリであり武士などでは無く陶芸家である
そして血の繋がらない二人の息子
彼女はそれらにより満たされそれ以上を望むものでは無かった
ただ一点を除いてだが
シラセ マイには許せないものが一つ
それは家族の絆を脅かすもの
それは先程のただ一点も含まれ
その脅威から家族を守る手段は自らの心の奥底にしまい込む事だった
それ故に目の前に現れた家族の絆を脅かすものが許せなかった
「鉄拳による制裁が妥当である」
果断な彼女は断を下した
「ううっ痛ってえ
大王!そなたの所為ですぞ!」
鉄拳制裁の一刻程後アキヨリ達は工房の裏手の勝手口にいた
頬を両手で抑えてしゃがみ込むアキヨリを
背を屈めてオオクニヌシとゲンがその様子を伺っている
「すまぬ すまぬ
しかし派手に吹っ飛びおったな
ゲンノスケも見たであろう
ふっひっひっひっ…」
「だっ 大王様人が悪い
し しかし出雲のオオクニヌシ様と会えるなんて信じられません」
「信じられませんって信じてるじゃないかゲン!
いきなり初対面の相手に出雲の大王だなんて言われて普通信じないよ
マイのやつも信じるようにお前が説得してくれよ
俺の言う事には暫く耳を貸さないだろうからさ」
「それは無理
にっ二 三日はフジオカさんの所に居た方がいい
マイも本当は分かってる
これはアキの問題では無くてマイの心の問題」
「なんだよ心の問題って
チョウキチやタノスケだって分かってくれて笑ってたじゃないか
なんでマイのやつだけ怒り狂ってんだよ」
「そ それを俺の口からアキに伝わったら俺まで家に帰れなくなる」
「全く訳が分からない
折角帰って来たのにトウカとリクノブに会えないのかよ
会えない間に歩いたりして立ち会え無かったら大王の所為ですぞ!」
「そ それなら俺が連れて行く
それにさすがにまだ歩かない」
「ううむ頼んだよゲン
しかしゲンなんだか喋り方が滑らかになってないか?」
「んっ?そっそんな事は無いと思うが…」
「そうかなぁ
でもさ初めて会った頃より皆よく喋るようになったよな」
分け隔たり無く人に接するアキヨリであるが
本当に心を許した者にだけ見せる笑顔があった
それを向けられたゲンはなぜが気まずそうに斜め上の宙を見て目をそらした
「御邪魔いたす!シュウテツである!」
シュウテツ医師の声は工房の表口からだった
その声を聞きほっとした様な表情を表したのはゲン
「せ 先生 シュウテツ先生が来てくれたみたいだ
ニザエモン殿のはからいで俺達の体の調子を見に来てくれてるんだ
待たせたら失礼になる
大王様ではまた後ほど失礼いたします
アキ これで大王様に失礼の無いお食事を」
ゲンはアキヨリの手にお小遣いを握らせた
するとホクホク顔のアキヨリの前にオオクニヌシが進み出て不意にゲンの鎖骨の辺りに両手をあてた
「だ!大王様?!」
慌てるゲンにオオクニヌシは耳打ちする
「暫しそのまま少し熱いが我慢せよ
あのシュウテツとやらに声を出す
修練の手解きを受けておるのだろう?
見た処 他の者は心につかえがあり声の出るのを邪魔しておる
しかしゲンノスケは生まれついての喉の構造に原因がある
修練だけでは思ったような効果は望めぬかもしれぬ
だが案ずるな
朕が力を貸してやる…
よし もうよいぞ
すぐには効果は無いが修練を続ければ必ず良くなる」
「何をやっているのですか大王?」
「ゲンノスケの喉に風邪の兆しが見えたのでな簡単な治療をしたのだ」
「そういえば大王は医師でもありましたな
しかしたった今シュウテツ先生が来てくれているのです
治療するなら俺の肋骨を治して下され
くしゃみをする度 痛んでたまらんのです」
「ははは そうであった
ならば休める所に行こうかアキヨリ
さすがに朕も長旅で疲れた
ゲンノスケ大事にするのだぞ」
工房に来た時 同様にアキヨリの腕を掴み
夕闇に溶けて行くオオクニヌシの後ろ姿にゲンは何度も頭を下げて見送った




