恋とマシンガン
「セイゲンジ家の居城クチョウ城は
海に面した平城で決して堅牢といえる城では無く
北の城壁は低地に築かれ大軍を配置出来る台地に面しており明らかな弱点でありました
兄上はその台地に布陣して一気に落城させんと総攻撃をかけたのですが
城壁から張り出す様に築かれた砦から豪雨の如きドウゼン達ヤツガサト衆鉄砲隊の砲撃が絶え間無く放たれ
城壁を切り崩すどころか近づく事さえままならず
城を包囲して兵糧が絶えるのを待つ事となりました
俺の騎馬隊は城に物資を運び込む経路を封鎖するべく
リヨウからもたらされる上空からの輜重隊の位置を頼りに潰してまわりました
しかし海戦の戦術に乏しい俺達は海上からの補給路を潰しあぐねていました
そこで俺はイセ シマ両国に縄張りを持つ海賊トバ スミトモに力添えを乞うたのです
ああ…スミトモなら今も俺に味方してくれていて
この刻限ならもう酒場におると思われますが
お会いになられますか大王?」
サカイの大通りを歩く二人に覆い被さった
夕闇の薄衣一枚をめくる様にアキヨリはオオクニヌシの顔を覗き込んだ
「んん?もうすぐお前の家族である
陶芸家達と会えるのであろう?」
「何を仰せか
スミトモですトバ スミトモ!
やはり聞いておられぬと見える
散々ドウゼンについて話せと催促されておりながらその様子
もしやどこかお加減が悪いのですか?」
「海賊とは いかついのう
生傷だらけのむくつけき男なのだろうな」
「あれ?聞いておられた
スミトモはそれ程 体格に恵まれた訳では無く
どちらかと言えば線の細い部類ですかな
ですが強靭な精神力はどのような逆境にも折れるという事を知りません
そして最大の長所は海上においての戦況判断力です
一瞬で敵味方の位置を把握し潮目を読み
卓越した操船術を有する手下達に最良の一手を示し続けるのです
スミトモの力により俺達は制海権を手中としクチョウ城の補給路を完全に封鎖したのです
勝利は目前と油断もあったのでしょうな
シジマ家の大軍に包囲され手も足も出ないと思われたクチョウ城の城門が開かれ
突然打って出たドウゼンに完全に後れを取ったのです
ドウゼン率いる騎馬隊は馬上筒を巧み操り
反撃の隙も無い素早さで撃っては退きを繰り返し
追い打ちをかければ城壁からの銃撃が襲いかかり
包囲の輪は徐々に広がりつつありました」
「一見自棄に見えるが見事な戦術であるな
神技の如き鉄砲戦術を見せつけられ
鉄砲を得意とするダンザのはらわたは煮えておったであろう?」
「ほっ?!よくお分かりですな
当然と言えば当然ですが
彼奴の眉間に弾丸をねじりこんでやると息巻いておりましたな
俺やタキでさえ話しかけるのを躊躇う程眉尻を釣り上げて
何の前触れも無くしかも三つある城門のどこから出て来るか分からないドウゼンに対し
ダンザは一つの城門に狙いを絞り
馬上筒に射程距離で勝る狭間筒を構えたまま食い眠り垂れ流し
遂にドウゼンに対し先手を取ったのです
馬上の人間より的の大きい馬を先ず狙い撃ち機動力を奪い勝敗は決したかに見えました
しかしドウゼンは微塵も動じず
撃たれた馬を盾にありったけの銃弾を放ち
ダンザ ドウゼンの両者で凄まじい銃撃戦となりました
ドウゼンを救出せんとするヤツガサトも近づくに近づけず
俺も見守る他無くドウゼンの銃弾が無くなるのを待ちました
やがて銃弾の切れたドウゼンが雄叫びを上げ太刀を抜いたところで
クチョウ城から降伏の申し出る使者が太刀を回しながら現れ
遂に俺達は勝利したのです」
「アキヨリ」
「なっ!何です?!」
「あのこちらを鬼の形相で睨む女人は誰ぞ?」
伊勢攻めの記憶に思いを寄せるにあまり
アキヨリは既に工房の前まで辿り着いて事にまるで気付きもしなかった
そこには腕を組み歩くアキヨリとオオクニヌシを睨むマイが立っていた




