手を取り合って
「背中を突き破るとは!
もしやそれはヨシツネ公の話にあった火の鳥の十二枚の羽ですか?
しかし大王は火の鳥の血など口にしてはいないのでは?!」
「おそらくそうであ
己の身に起きた事をおそらくと言うのはおかしいが
その後の朕は記憶が曖昧なのだ
それと火の鳥の血を飲まずとも我等熱を操る守人は
その力を高め極め尽くすとあのような姿になるのだ
お前がナガヨリの塔が倒れた後 朕の手にお前の力を届かせようとして恐ろしいまでに力を高めた折に
朕がお前を止めたのはそういった理由であ
後々よく聞かせる故 朕の最後の日の有様を聞いてくれ
背中に激痛を感じると意識が朦朧とし目の前が真っ赤になった
渡来人の兵が炎に巻かれのたうち回っていたのだ
炎の出処を探すと朕を裏切った九人の身体から龍の如く炎が噴き出しているのが見え
朦朧としながらも朕はいいようもない高揚感を覚えた
笑い声をあげていたのかもしれん
さながら化物であったであろう
だが時が経つと共に高揚感は徐々に薄れ代わりに背中を中心に激痛が戻ってきた
そしてまたあの声が
「こっちへ来い お前の欲しい物があるぞ
こっちへ来い」
声はそう頭の中に反響し導かれるまま朕は歩き続けた
いや
歩いたのではなかったかもしれん
どの様に辿り着いたのかも
どれ位の時を要したのかも分からぬが
朕は辿り着いた
ホウライ山の山頂へと
そして欲した
人の世を焼き尽くすものを
地響きと共に一つ人の世を焼き尽くすものが山腹に赤く一筋噴き出すのが見えると再び朕は高揚感に包まれた
だが朕は満たされず乾き
もっともっとと願い
あの声も
「もっともっと」
と朕の脳を揺さぶり続けた
人の世を焼き尽くすものは一つ一つ数を増し
遂に山頂の古の火口にその予兆が現れた
朕は絶頂へと登りつめようとしていたが朕を呼ぶ声に我に返った
朕の家臣達が噴き出す溶岩を恐れもせず朕の名を呼び
朕の元へと這う様に山の斜面を登って来ていたのだ
そこからははっきり覚えている
家臣達の中には見知らぬ顔もあり
その中の一人が引き止める数人を振り払い朕の目の前まで進み出てきた
若い男であった
少年であった
少年は言った
「ヤマトの王カムナである
オオクニヌシよ怒りを鎮めよ
国譲りの不手際 全て佞弁に誑かされた我の不手際
我が命がそなたの怒りを鎮めるならば喜んで差し出そう
しかし条件がある
我が命そなたの炎としたその暁には思い出してくれ
国を民を愛した心を」
朕が何も答えられずにいるにも関わらず
歩みを止めぬヤマトの王を飛び付いて引き止めたのは朕の家臣であった
ホウライ山迄の長い道程を休まず来たのであろう
ふらついた足でカムナに飛び付き
逆に倒れそうなところをカムナに支えられた家臣が言った
「カムナ様を殺してはなりませね
カムナ様はスサを厚く弔ってくれました
涙を流し誠の忠臣であると
渡来人の先王と先住人の母君より生まれしカムナ様は
両者により異人で両者により同胞であると
二つの民が共に生きるには この先も争いは避けられぬであろう
平和と幸福を約束するなどと無責任な物言いはせぬ
しかし歩みは絶対に止めぬと
我等の命を以って贄として下され
我等がこと切れる前に今一度
不安を消し去り希望を与えて下さったあの笑顔を見せて下され」
その言うと家臣達は剣を抜き互いに胸を突き赤く染まっていった
朕の背中に生えたものが萎び項垂れた
笑顔など見せてやれはしなかったかもしれん
朕は家臣達一人一人の手を取るのが精一杯であった
最後の一人がこと切れると朕は噴火の予兆を表す山頂の火口へと向かった
ヤマトの王に一つ条件を遺し
ヤマトの国名に大陸の文字をあてるならば(和)の一文字を使って欲しい
この地に住む者が試練に心歪み引き裂かれようと和の心を忘れぬように
そう言い遺し朕は赤い亀裂へと身を投げた
終始 朕に語りかけてきた者の
「やめろ」
と言う声と共に
朕はおかしな言い方だが満足であった
朕という脅威により渡来人 先住人 両者が手を取り合ったのだ
それが朕の最後の日であった」




