黒く塗り潰され
「その者共は大王の元を去った後
渡来人の国に取り入り
大王の国が不安定な情勢である事を漏らし
今が国取りの好機であると渡来人の王をそそのかした
大王が納得するであろう約定の制作
降伏勧告を成し遂げるまでの手引きをする見返りに
己等が権利の座に就く確約を得た
そんなところでしょうか?」
「全くその通りだ
取り決めにより護衛をつける事を許されなかった一人頭を下げ降伏の意を表す朕の横を音を立て歩き
彼奴等九人は横柄な態度で上座につくと
その様な経緯を苦労話として語り始めた
そして苦労話を語り尽くすと
やれ元々 女には国を背負い立つなど無理だっただの
己が無能故 無能な者を重く用いるだのと朕を罵った
何を言われようと事実である
それに朕を裏切ったとはいえ同じ地に生まれ育った人間だ
異民族に支配される事態だけは避けられるのだ
国の為民の為と朕は耐えた
しかし彼奴等の一人が朕の父にまで言及してきた
たいした学問も無く元々 指導者の資格など無かった
心を患うなど血統に問題があるのだと
朕の心を乱し刃傷沙汰となるよう仕向け
挙句に朕を気が触れたなどと言い掛かりをつけ亡き者としようとの魂胆は見え見えであったが
もうどうなろうと構わなぬと腹にかけた閂を外してしまった
その時だった
「人の世が憎いか」
何者かが朕に語りかけてきたのだ
その場にいるどの者の声では無かった
何者かが神殿に立ち入って来たのでは無いかと長い階段に続く正面扉を見やると
朕の失政にも朕の元を離れず腹心として仕えてくれていた
スサという名の若い将が仁王立ちに立ち言い放った
「大王は御父上を愚弄されてまで何も言い返せぬ腰抜けであったのか
間を置かず王でなくなるそなたであるが
待ってはいられぬ
一刻もそなたの臣でいること我慢ならぬ
たった今見限らせて頂く
すなわち今から我が成す事全てオオクニヌシとは一切関係無い
よろしいな皆様方」
言い終わるや否やスサは剣を抜き
父を罵った者の口へ突き刺し
引き抜き様に隣に座る顔を半分に削ぎ落とし
神殿の外へと逃げる残りの七人を追って行った
朕はスサを止めるどころか一言も発する事が出来ずにいた
身体が異常に熱くなり指一本動かすだけで激痛が襲って来たのだ
だがその様な理由でスサを見殺しには出来ない
神殿の外には渡来人の兵が控えていたのだ
朕は神殿の外へとスサの元へと長い階段を這いずり下り始めた
顔を上げるにも激痛に難儀し
歩み慣れ一々目にもとめなかった階段の一段一段の他を目にする事を許されず
ただスサの声だけが耳を突いた
「我が王よ我が民よ
今より起こる全て夢幻
我を想う心あるなら目を閉じ耳を塞げ
王を裏切りし卑劣漢共そして異人の兵共よ
我が王が我が民が虐げられ死後の国を憧れる事などあってみろ
ましてや不当に命を奪われる事などあってみろ
このスサ怨霊となり蘇り貴様等の一族郎党呪い殺してくれるぞ
これだけ多くの顔など覚えられまいなどと侮るな
証拠に毎夜眠れば夢にこのスサが現れ
水鏡を見ればこのスサの顔を見るであろう
夢々忘れるではないぞ」
朕は思うままにならぬ体を投げ出し階段を転げ落ちた
そしてやっとスサの姿を目にする事叶った
矛に突き刺され高々と掲げられたスサの姿を
全てを黒く塗り潰された朕にまた何者かが語りかけた
「人の世が憎いか」
と
「憎い」
そう答えると朕の背中を内側から何かが突き破ったのだ」




