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六角の花   作者: フミ
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格差より生まれし卑劣な訴え

「つけ火とは それ以外の訴える手段を持たぬ弱者の歪んだ強訴」


「ふふ

先読みもそこまで行けば予言であるな」


「いや 先読みの積りでは」


「よい

もう止めはせぬ

共に歩んでくれ朕の最後の日まで

お前の言う通り下手人は滅多に己の心情を声にする者ではなかった


黎明の頃より製鉄の仕事に従事し

砂鉄の収集 木々の伐採 炉の築造

皆がやりたがらない辛く日の当たらない仕事を進んで引き受けてくれた


朕は信じられなかった

辛苦を共に歩み

最初に玉鋼の生産に成功した際には喜びを分かち合った

動機など思い当たらず何故という言葉だけが朕の中で堂々巡りしていた


その何故には直様 句点がうたれた

朕の前に連行されて来た その者が朕の顔を見るなり

目を見開き憤怒を表し

今迄その者が発した事の無いような

巨大な梵鐘が如き声でこう申したのだ


何もかも失った

いや

奪われた


元々 異人を受け入れたのは お前の親父だ

その異人が攻めて来ると脅かされ

それでも新しい何かを手に入れ豊かに暮らせるようになると

村を捨てお前の仕事を手伝った

くる日もくる日も新しい何かを信じて苦しい仕事を耐え抜いた

その報いが僅かな米と鉄の鍬だ

まだ働けと言うつもりか


要領良く目立った動きをする奴は

お前の作った法律やら官位やらで楽してどんどん出世して威張りくさってやがる

昔は皆 身分に上も下も無く違う村の人間でも仲良くやってきた

それが何だ

誰より働いても惨めになって行く一方だ

嫌になって村に帰ろうにも森は切り倒され

山津波で岩と泥の下敷きだ

ちきしょう ちきしょう ちきしょう…」


涙声を意に介さない訳ではない

受け止めアキヨリは歩みを止めない


「下手人は如何に処しましたか」


残酷な問いだった

しかしオオクニヌシの耳には


「その痛みを俺によこせ」


と聞こえた

オオクニヌシも歩みを止めはしない


「うむ…

燃え盛る多々良場の鎮火を試みた職人達十七人が重い火傷を負い

三人が命を落とした

その罪に見合う罰を与えねばならぬ

死罪とした…」


「大王は法を改めましたな」


「そうだ

朕は日の当たらぬ仕事する者

成果が上がらずとも努力し続ける者

それらの汗と苦役に重きを置き

賞罰を改めた

しかし全ての苦役になど目を向けられはしなかった

格差は依然として存在し

優れた能力を持つ朕の側近達は

彼等が無能と蔑む者と同格とされたと感じたのであろう朕の元を去った

朕はもう何が正しいのか

皆の幸福の為に何をしたらいいのか分からなくなった

そして己の功績を主張する当然の権利を身勝手と憎むようになって行った

朕は民を憎み民は朕を遠ざけた

朕の国は朕の手により要に楔を打ち込まれたのだ」


「凶事は凶事を呼ぶ

何かは分からぬが

その楔を更に奥深く打ち込む出来事がありましたな」


「そうだ

朕の元に渡来人の国の使者が訪れた

用件は降伏勧告であった

渡来人の国は既に機内一帯を版図とし五万の兵力を有する迄に至った

力の差は歴然

今なら過去は水に流し朕が王位を譲り降伏するならば受け入れると


王としての気概と自信を失っていた朕には渡りに舟であった

使者は高圧的では無く約定の始めに朕の民が虐げられる事は無いと謳ってあり

全てを犠牲にして興した国ではあったが

流血無く新たな統治の元に平和が訪れるのならと朕は勧告を受け入れた

国を譲った後 おそらく朕は誅殺されるだろうと覚悟の上であったが

それも良しと自暴自棄になってもいた


渡来人の立てた国を統治する官僚と進駐の為の軍勢がやって来る手筈となり

朕が王を退く日がやって来た


神殿の上座を渡来人の官僚の為に用意し

下座にて官僚達を待ち受ける朕の前に現れた者共を目にした朕の血は煮え立った

朕の元を去った かつての朕の側近達だったのだ」



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