雲を待つ女王
空気は鉛の重量と化した
伝えるオオクニヌシ受け取るアキヨリ
双方が痛みを感じていた
しかしその痛みはこれからアキヨリが進む道を照らす光となり得る
そして痛みを光と変える手段はただ一つ
前に進む事だ
アキヨリは鉛を切り裂いた
「勝利と申しましたな
当時の大王は手に入れた力を使い成功を収めたとお考えであったか?」
「そうだ
その時の朕は手に入れた技術 知識 狡猾さで
一個人としては失い
公人として成功した」
「一個人として失った事は失敗となりませぬか?!」
「失ったからには意地でも勝利せねばならぬ
朕は勝利したのだ
喪失感に打ちのめされたが未来を手に入れたと思っていた
しかしなぜ当時と限定する?」
「俺は手に入れた力で多くの命を奪い
失敗したと感じ挫折感を抱え
自分の価値は死して世の礎となる事として生きて来ました」
「成功したと考えていた朕がその後どうなったかと言いたいのだな」
「そうです
今でも悔やまれる
俺がしみったれた負け犬根性に囚われていなかったなら
直臣五百の命を喪わずに済んだのではないかと
兄アキマサは今でも生きていたのではないかと!」
「アキヨリよ今でもお前は負け犬根性と共にあるか?」
「いえ
友がリッカが俺を生きるべき人間と思い知らせてくれました」
「うむ
ならば聞くがよい我が道は正しいと歩んだ朕の蹉跌を
戦の後 朕は三日の暇を乞いグァンユウを探した
もしかしたらを支えに山津波の跡を辿り
かなり下流まで声を枯らしグァンユウの名を呼んで探した
しかし遺体すら見つけられず約束の三日が過ぎ朕は集落へと帰路を急いだ
やらねばならぬ事が山積していたのだ
戦で功のあった者に報いねばならぬし
怪我をした者の治療
命を落とした者の弔い
さらに木々を伐採した森を住処としていた者達は帰る場所を失ったのだ
戦に勝つ為と不自由をさせてしまっていた
住処と食料の確保に本格的に取り組まなければならかった
そして何より多くの人間が父を指導者として一つの共同体となった
それ迄も決まり事や掟の類のものはあったが
法を作る必要があった
朕の書き記しておいた草案を手にして族長達に囲まれ
義侠心に富んでいたが学問の無い父はさぞ難儀しているだろうと
グァンユウの名を胸の奥底に押し込み集落に帰還した朕が見たのは変わり果てた父の姿であった
戦という他勢力との大規模な闘争とその備えに要した期間
皆の期待に答えねばならぬ
命を守らねばならぬ
と絶え間ない緊張に晒され続けた父の精神は
戦の終結により弛緩しそのまま崩れ落ちたのだった
光の無い目で朕を見る父は二度と朕の名を呼ぶ事は無かった
新たな指導者を選ばねばならぬ
族長達が推した者それは朕であった
朕は父より授かった名を捨て…
アキヨリよ何と言ったかな朕の名は」
「オオクニヌシの尊です」
「そうであった
朕はオオクニヌシを名乗り国王となった
鉄製の道具は広大な耕地と優れた灌漑設備をもたらし国は栄えた
国の力の象徴として
やはり鉄製の鋸や斧といった道具で建築された
それ迄考えられなかった巨体な建築物である神殿を住居として朕はあてがわれたが一時も心晴れる事無く日々空ばかり見て過ごしていた
ロロギとグァンユウを連れて来てくれた積乱雲を見た時だけ生きている実感を感じた
全ては順調であった筈なのだがな
だがアキヨリよ
お前の知る通り我が国は滅びたのだ
その終りの始まりといえる出来事は建国より僅か三年であった
朕の力無しでも優れた鋼を生産する迄の技術を得る迄に至った
鉄を産み出す繁栄の象徴である多々良場の建屋が放火により焼失したのだ」




