勝利と引き替えの
「山津波!」
「土石流とも言うらしいな
朕の時代にはその現象を表す言葉は無かったが
あの恐ろしさを共有出来る言葉があったなら…
製鉄を始めてから山津波は二度あった
それ故朕の仲間達はその恐ろしさを十二分に理解していた
皆朕の言葉に従い戦いを放棄して
高所となり被害を避けられるであろう集落へと脇目も振らず走った
だが渡来人達は奇襲を受けた恐怖に支配され
新たな恐怖になど心を割く余裕も無く
更に朕の言う迫り来る危機の重大さを理解することも無く
豪雨により視界の効かぬ荒野を右往左往した
それでも朕は止まり
もう戦は終わった共に逃げてくれ
と叫び続けた
だが朕の言葉など信じて貰えるどころか届きもしなかった
巨大な岩がぶつかり合う轟音は間近に迫って来ていた
朕の身を気遣い共に残った数名は
これ以上留まっては手遅れになると観念し
手足をバタつかせ仲間の手を振り払おうとする朕を力任せに押さえ付け抱え運んでくれた
すると南の山の斜面に僅かに残った木々が弾け飛び岩の大群が姿を現した
最早 集落まで辿り着く余裕は無いと
一か八か集落より近い
朕が敵陣を偵察した岩の高台へと向う事となり
朕も冷静さを取り戻し己が足で走り
なんとか山津波に追い付かれる事なく高台に避難出来た
しかし高台は充分に山津波を避ける高さでは無かった
後は運を天に任せる他は無く
朕達は寄り添い合いただ祈り
朕は残ってくれた皆に謝罪の言葉を喚き続けた
やがて眼前に山津波が迫り来ると轟音は静寂となった
目に入って来る桁外れの脅威は意識が音を感じる余裕を奪ったのだろうな
そのせいか視力は研ぎ澄まされ
間一髪 朕達の眼下を流れ行く尽くが異常な鮮明さで脳に捻じ込まれて来た
岩 倒木 そして渡来人の兵士達
その中のひとつが朕の目を鷲掴みにした
グァンユウが倒木にしがみつき濁流に飲まれては這い上がり
朕に向い何か叫び続けていた
朕は岩を蹴り跳んだ
ただグァンユウの元へと
それだけを願い
だが仲間達の手が朕の甲冑や足 至る所を掴みそれを許してはくれなかった
高所へと引き戻してくれた皆の渾身の膂力で
朕の身体は一度二度転げ回りやっと顔を上げ濁流に視線を戻すもグァンユウの姿は既に無かった
朕は…
朕は生き残り勝利したのだ」




