取り憑かれし者
真の動揺というもの人を沈黙させる
あらゆる可能性をある意味 遊具の様に扱い
不測の事態など遊び飽きた遊具の代わりとするアキヨリは沈黙を強いられた
「和睦を考慮しない戦など余程の怨恨が起因となった場合以外は考えられん
では何故大王は…」
その問いに自ら導き出した答えがアキヨリを黙らせた
「アキヨリよ朕は狂っていたのだ
グァンユウの顔を見て何とか戦いを避けなければと思うまで朕は和睦の事など欠片も頭に無かったのだ
それが何故なのか分からぬままに朕は仲間が集結する朕の集落へと走った
標高の高い所では既に雨が降り始めていた
多くを考える時間の余裕など無かったのだ
集落へ到着した朕は皆を集め時が来た事を告げた
甲冑を身に付け…
まあ朕の甲冑など凝りに凝った美しく勇壮な甲冑を纏うお前から見れは甲冑などと言えぬ簡素なものであったがな
だが戦の身支度を整え矛を手にした朕の心は高揚した
全て朕と仲間で作り上げた物であるからな
その朕の耳に仲間達の歌が聞こえてきた
闘争心を掻き立てる戦いの歌だ
家を飛び出し既に隊列を組んだ仲間達に朕は進軍する道を示した
一つ目の雷鳴と共に降り出した滝のような雨の中を我等は駆けに駆けた
行く先は渡来人の陣ではなく
まだ木々が伐採されず残った
彼等の陣取る荒野から見て左側の南の山の上り斜面であった
斜面に到着した我等は一点突破に適した蜂矢の陣をとり一気に駆け下りた
程なく豪雨による水煙の向こうに渡来人の陣が見えた
突然の豪雨にも関わらず雨宿りをするでも無く
高台から朕が見た横一列の陣より更に両翼を広げ前に突き出した鶴翼の陣といえる陣形であった
無論その陣形は我等が攻め寄せるであろう朕の集落を向いたものであり
我等に弱点である側面を晒していた」
アキヨリの全身の毛が逆立った
「大王は敵が奇襲を予測したを予測したのか?!
何を手掛かりに?!
もしや!もしや!!」
オオクニヌシは表情を微塵も変えず続ける
「手掛かりは一つ
朕がグァンユウに豪雨と共に進軍すると打ち明けたことだ」
「何と!何と!うぐぐぐ!」
「腹を括って聞くと申したであろう
聞け」
「はい…」
僅かに眉尻を下げオオクニヌシは続ける
「側面を突かれた渡来人は陣は総崩れとなり
辛うじて反撃を試み襲い掛かって来る者の刀や矛も我等の武器とぶつかり合うといとも簡単に折れ鉄塊となり泥に埋れた
朕の身体を陶酔感が突き上げた
朕はその時初めて気付いた
和睦の手段がまるで頭に無かった理由に
手に入れた優れた鉄そして武器
そして戦術を敵の血肉によって試したかったのだ
我等の武器がどれ程に敵を蹂躙するのが見たかったのだ!」
ドスッ!
アキヨリが予想したオオクニヌシが和睦を考えなかった理由
そしてオオクニヌシが打ち明けた理由
されらが全くの合致をした
何故アキヨリがその結論に至ったのか
身に覚えがあったのだ
彼の脳裏に初陣を前に勇み昂ぶった
いや
浮かれた幼き日の自分の姿が映し出された
天より授かった超常の炎を操る力それを発揮する機会を得た
ただその力を誰にはばかること無く使いたかった
如何に自分の力が敵の城を吹き飛ばし落城などあり得ないとタカを括った敵を絶望のドン底に突き落とすのか
その直後に非戦闘員を巻き込む大量虐殺という悲劇を己が引き起こす事など思いもせず
心の奥底に押し込めた筈の真新しい具足に身を包み
浮かれ はしゃいだ齢十一の愚かな童が笑い走り回り
アキヨリの恥そして苦悔を散らかし放題撒き散らした
それらを一気にぶちのめす為自らの腹に見舞った拳の一撃が鈍く響いたのだった
その様子を目にしたオオクニヌシだったが全てを受け取ってくれると一度信じたアキヨリを疑う事などせず続けた
「渡来人が武器を捨て散り散りに潰走を始めると
朕の仲間は追い討ちをかけようと陣形を崩し各々逃げる彼等を追い始めた
朕は声の限り叫んだ
「敵 味方共 戦いはこれ迄だ
皆集落に向い走れ」
と
朕は聞き分けていた
雷鳴とよく似ていたが似て非なる
山頂から押し寄せる轟音を
製鉄の為に木々を伐採され
水を蓄える力を奪われ脆弱になった山の斜面を
豪雨に押し流され恐ろしい勢いで無数の岩が転がる音を」




