真夜中の青空と入道雲
そこまで告げたオオクニヌシは左肩に自分の首を乗せるように右斜め上を見上げた
そこには積荷の隙間から何らかの星座の一部が見えた
しかしその目に映るのは全く別のものであろう
一方アキヨリは
「和睦…再会…交渉…大王の表情…
決裂…逃亡……
やめた」
また得意の先読みを始めオオクニヌシの話から得た情報
予想される事柄
それらを片っ端から脳内の作業台の上に並べた
そして悲劇ばかりが並び真っ青になってしまった作業台を蹴り倒し
少しでもオオクニヌシの伝えようとするものを正確に受け取る為
オオクニヌシの見ているものを自分も見ようと
眩しい空の青と積乱雲を胸に描いた
「よかった
ここに来ればお前に会えると思った
離れてもここで二人して遊んだ日々を思い返していた
大きくなったなニリカ
でも一目で分かった
詳しく話している時間が無い
逃げよう
もう何もかも手遅れなんだ
私と逃げよう」
「えっ?!」
「どうした?アキヨリ
誰か来たのか?」
「いえ…お続け下され」
「うむ
グァンユウは朕の顔を見るなり再会の挨拶も無しに逃げようと申してきた
グァンユウは言った
戦を避けようと尽力してくれた仲間は全て捕らえられた
仲間を助けたければ敵の指導者を和睦すると見せかけ亡き者としろ
我等と内通していると勘繰られていたグァンユウはそう持ちかけられ一人やって来たと
しかしそんな事など出来ない
されど最悪の事態を避ける術などもう無い
優れた武器と戦術を備えた渡来人の大群に朕の仲間は殲滅されるであろう
渡来人の国は年々版図を広げいずれは日の本一帯を支配する
しかし朕一人を連れて逃げるなら
二人きりで身を潜めひっそり暮らしていける地を見つけられるかも知れない
それがたった一つ残った希望だと
朕は夢なのか現なのか分からぬまま
ただグァンユウの顔を見つめていた
いや
グァンユウの顔に深く刻まれた傷跡を見ていた
朕は伝え聞いていた古代大陸王朝の興亡にまつわる惨たらしい拷問そして処刑方を
既にグァンユウはこの世の者では無いと半ば諦めていた
そのグァンユウが目の前にいる
夢なのか現なのか分からぬ朕がこれが現実なのだど弁えたのはグァンユウの傷跡を目にしたからだった
納得してしまったのだ
朕自ら思い描いたこれまでグァンユウの辿った経緯に
朕の中にある全てが恐ろしい速さで渦巻き
選択し答える為その中の一つを掴もうにも掴めずただ立ち尽くした
その朕にグァンユウの手が差し出された
薬指と小指の無い右手だった
その手を掴んでたった一言
「連れて行って」
などと言えば可愛げがあったのであろうな
はたまた朕の本心であったか
しかしながら何かに押し出されるが如く朕は答えた
「一緒には行けない
指導者である父から全てを託された
仲間を裏切ることは出来ない
我等こそ優れた武器と戦術を備え
大勢の同志が集まった
夕刻には雷を伴う豪雨が降る
その豪雨と共に我等は進軍する
勝利するのは我等だ
グァンユウそなたこそもう一度我等と共に生きよう」
しかしグァンユウは何か堪える様に奥歯を噛み締め
何も言わず去って行った
朕はグァンユウの背中に叫んだ
「仲間を解放する為戻るのか?
やめてくれ
たった一人でそんな事をしたら殺されてしまう
雨が降り始めたならそなた一人でも逃げてくれ
私はここで待っている
ずっと待っている」
小さくなるグァンユウの後ろ姿を見つめる朕はある事にやっと気付き愕然となった
朕は和睦の案 策 手立てをなに一つ講じてはいなかったのだ」




