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六角の花   作者: フミ
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戦術家の下世話さと誠実さ

「大王…いや 何でもありませぬ」


「ふふふ 遠慮するな

戦術家のお前の事だ

興味があるのであろう?朕の時代の戦に

ロロギの話の後で不謹慎と感じておるのだろうが杞憂であるぞ

朕は朕の蹉跌をお前の糧とせよと申した

むしろ知って欲しいと願っておる


先ずは双方の兵力であるな

荒野を埋め尽くすとは申したが少々大袈裟だった

渡来人の兵力は約五千

我等の兵力は三千程であったか

渡来人の軍勢は山林から開けた荒野に出ると横陣の形で陣取った

朕の集落からは五町(約500m)程であったな

渡来人の軍勢の中には当然朕の集落に居た者も居るから周辺の地形は知られている

さらにロロギにより渡来人が攻め入る事もこちらに周知となった

おそらく山林を密かに行軍し奇襲をかけてくる積りであったのだろうが

製鉄によりハゲ山になってしまった土地では身を隠せずそこに陣取り こちらの出方を待ったようだな


森林が姿を消した事により こちらが製鉄の技術を既に備えた事や

点々とあった小さな集落は朕の集落と一つになり無くなっていた事は道中気付いていた筈だ

武装した軍勢と呼べる集団が待ち構えている事を予想しての慎重さであったのだろうな

しかし横一列の横陣とは馬鹿にしている

無為無策にボロ鉄のひん曲がった刀を振り回す野蛮人が押し寄せて来るのを

横一列に広く陣取り包囲して一網打尽にする積りであったのだろうな」


「容易い相手

しかし俺ならばこちらから仕掛けはしませぬ

痺れを切らした者が勝手な行動をするのを待つ

こちらに仲違いがあったように一芝居うち功を焦る者を誘い出す

誘い込むのに急に狭くなる地形があると更に良いな

そうした手法で敵を分断して各個撃破いたす

或いは大王は天を読む巫女

大雨 濃霧など天候の変化が予測出来るならばそれに乗じての奇襲…」


「後から後からよく出てくるな

朕はその天候の変化を使ったのだ

その日の夕刻には夕立により激しい雷雨があると予測出来たからな

半日待ちぼうけの後の雷雨となれば緊張の糸も切れるというものだ

視界もままならぬ豪雨に乗じて一気に敵陣を目指し進軍した」


「大王暫し待たれよ

大王のお手並み実に見事

しかし二つばかり問いがある

先ず一つ目は話しぶりからして大王自ら軍勢に加わっていたように聞こえまする」


「そうであ

一番槍と迄は行かんが先陣で指揮を執った

朕は女人であるが並の男よりは大柄であるからな」


「なんと なんと勇ましい事か!

トモエ御前顔負けである

しかし二つ目の問いが肝腎

大王の話からは和平交渉の和の字も出ては来なんだ

なぜだ!

聡明な大王の事だ和睦の手段を幾重にも周到に用意していた筈だ」


いつの間にかアキヨリの言葉には熱が籠められていた

独特の寛容さを持つオオクニヌシであったが

真っ直ぐに迫り来るアキヨリの視線を外し眉尻を下げた

その表情は度々オオクニヌシの意を気にも留めなくなるアキヨリに向けたいじけたものでは無く

胸に痛みを感じる者の表情だった


「アキヨリよ聡明なのはお前の方だ

全てお見通しとはこの事よ

少し話が遡るが良いか?」


「無理をなさるなら このアキヨリの本意ではありませぬ…

いや!

話して下され

大王の覚悟に見合うかは分からぬが

このアキヨリたった今腹を括り申した!」


「うむ

それでこそ朕が見込んだ男よ

遡るのは朕が高台の岩場から渡来人の軍勢を窺い見下ろしていたところであ

僅かな様相も見逃すまいと意識を全て敵陣へと向けていた朕は不意に名を呼ばれた

色を失い声の方を見やると先ず立ち上る積乱雲が見えた

眩しい空の青に目を細めると朕を見下ろす岩の上にグァンユウの姿があったのだ」


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