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六角の花   作者: フミ
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太古の安寧

「大王の失敗を俺の教訓とせよ申されるか?

ありがたいがしかし何故今になって

道中いくらでも話して下さる機会はありましたが」


「ダンザエモンとキリュウは朕を馬鹿にしているからな

聞かれとうなかった

ふふふ

ヘイクロウと同じだな

それに何年経とうが己の失敗談などおいそれと話せるものでは無い

それを聞かせてやるのだ心して聞け」


「 はっ心得申した」


軽口の体を装っていたが

オオクニヌシの言葉には一種の決意が籠められていた

その決意に応えようと

発する言葉 行う行動に気の抜けた曲線を伴っていたアキヨリの言動に

直線の骨組みが突っ込まれた

襟を正し背筋を伸ばして僅かに尻を上げ座り直すと

どこがどう変わったかと口に出すのは難しいが

先程とは比べ物にならない凛然を全身から醸し出し

やや大きめに息を吸っては吐きオオクニヌシの言葉を待った

三度目に肺腑を膨らませるとその時は訪れた


「朕の生まれ出でたイズモは緑豊かな国であった」


「そこから始まるのですか?」


真剣に耳を傾けてはいたがオオクニヌシの誕生という話始めに

アキヨリは少し面倒になり思わず口を挟んだ

しかしオオクニヌシは気にも留めず続ける


「国と言いはしたが朕が生まれ出で頃は国など無かった」


「国が無かったとは!

ならばイズモを建国したのは大王なのですか?!

国無くして人々はどの様に暮らしていたのです?」


国が無かった

オオクニヌシの言葉にアキヨリは再び思わず口を挟んだ

オオクニヌシは先程と同様気にも留めず続けたが

アキヨリの興味を完全に掴んだ事を確信し僅かに口元を緩ませた


「豊かな森と海は我等に糧と住まいをもたらし

国などどいう大きな共同体を持たずとも

川や山といった自然の境界線に区切られた小さな集落に肩を寄せ合い人々は争うことも無く生まれては消え命の地層を積み重ね

日々の暮らしを紡いでいたのだ

もっとも天候不順による食糧不足などで他の集落を襲い

我が糧を得ようとする者もいるにはいたが

結局は森を頼りとする集落が飢えれば川や海を頼りとする集落が助け

またはその逆もあり

お互い分け合い難局を乗りきった


となると人々の最大の関心事は天候となる

ありのままの自然を頼りとする暮らしは

ある意味その日暮らしであり翌年の事など考える者は殆ど居らなんだが

先程申したような小競り合いが大きな争い事に発展するのでは無いかと危惧する者もいた

森を頼りとする集落の族長であった朕の父だ

ある時父は朕を呼びこう仰られた


争い事の種となる飢えを根絶する為稲を培う

天候を予知し日付けを記し

種蒔き収穫の諸々を管理しろと」


「大王は天候を予知出来るのですか?!」


「朕は巫女であった

幼い頃より何故か空模様や星座に心を奪われ

事細かに記し それを一人眺めては悦に入る可愛げのある乙女であった

それ故過去の記録からある程度の天候を予想し

族長であった父や周りの集落からも頼りとされ

未来を予知する巫女として重宝されたのだ

と同時に医師でもあった

朕の家には飼犬がおってな

ある時集落に迷い込んだ猪を追い出さんと勇敢に立ち向かい

怪我をしてもう助からぬと皆が匙を投げた

朕は為す術もなく唯昼夜犬の体を摩り続けた

すると三日目の朝自ら餌をねだりそれからは見る見る回復した

それを見た者は怪我や病気になると朕を頼って来た


申した通り医師と言ってもな

朕も外の世界はナガヨリなどから伝え聞く位で良くは分からぬが

現代の医術の様に病原を特定して治療などはしない

ただ患者の痛む箇所に手をあてるだけだ

だが朕が手当てすれば桁違いに回復は早まった

朕の手当てを受けた者が言うには朕の手をあてた患部がとても熱くなったそうだ」


「多々良の力ですか?!

我等の力は元来人々を癒す力だったのですな!

やはりこの力は敵を地に伏せる為になど使ってはならんのだ」


後悔を右手で握りしめたアキヨリをオオクニヌシも同じ想いで見つめ

そして続けた


「その安寧な日々に終焉が訪れた

大陸の王朝が滅び生き残った者共がこの日の本の大地に逃れ参ったのだ」



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