素直になれなくて でもなりました
南の夜空に瞬いていた鶴の正座は水平線へと沈み
辺りは波音とヘイクロウの寝息だけの静寂が漂っていた
「眠れん」
何度か眠ろうと試みたアキヨリがその結果を口にして体を起こすと
積荷の隙間からオオクニヌシの顔がぬっと現れた
「ぬあっ!
お休みでなかったのでは?」
赤子に向ける様な視線をヘイクロウに落すオオクニヌシはアキヨリの問いには答えない
「童の如き寝顔であるな
胸のつかえが取れたとみえる
しかしアキヨリよ見事であるな」
「何が見事と仰せか」
「自分は無力だ卑怯者だとタダをこねる童をなだめた手前であ
若い内は他人の評価がことさら気になる
とりわけ己と同格と張り合う者には弱みを見せたくは無いというものよ」
「その葛藤を自分で認めた時点でヘイクロウは乗り越えております
ヘイクロウの本質は理不尽に踏みつけられた力無き者への慈しみの心です」
「そうであるな
実に良様な若者であるな
しかしアキヨリよ随分と大風呂敷を広げたな
妻を取り戻したなら お前は陶芸家として生きるのではなかったのか?
チクゴに攻め入り我が物とするならば中国一帯でも領地とせねばなるまい
何年かかるやら
若い者は己が歳をとらぬと思っておるからなぁ
お前が陶芸家となる頃は白髭の爺いであろう」
「からかうのであれば大王が寄り掛かっている積荷ごと蹴り飛ばしますぞ」
「怖い 怖い
お前は本当に怖い
お前を頼りとする者には底抜けに優しいくせに
何故 朕にはその様に怖いのだ?!」
「苛々するのです
頼りとする者が頼りにならぬといった苛立ちです
詰まる所大王の度量に甘えているのです
俺に正直に心情を打ち明けてくれたヘイクロウを見ていて
俺も正直になろうと考え直しました」
「ほほう
朕の偉大さ故とな
では蹴らぬな」
「元々蹴る積りなどありませぬ
何の言われも無く蹴り飛ばされる
そのご婦人が気の毒ですから」
「ほほう
気付いておったか」
「この世のありとあらゆるものは
何の前触れも無く湧いて出るのではありませぬ
溶岩沸き立つ地底にて火の神を抑止する大王がこうして我等の目の前に現れるには人の形をした何かが必要であろう
一番手っ取り早い手段は正体を失った者に憑依することではないか?
俺は以前この目で見た
命を落とした筈の無二の親友が
気を失った与太郎の体を借り再び俺の前に現れてくれた
無二の親友タガ カゲナリの言葉一言一句忘れはせん
あるお方の力を借り現れたと
あるお方とは大王の事ではないか?!」
「やっと朕に興味を持ってくれたな
アキヨリよ眠れぬなら朕の昔話に少し付き合わんか?
王として生き王を全うする事無く地に沈んだ朕の蹉跌は
これより多くの者の首席となるお前の他山の石となるであろう」
オオクニヌシはまたもアキヨリの問いには答えなかった




