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六角の花   作者: フミ
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239/788

尻の痛みと胸の痛み

積荷の木箱が重ねられた隙間には中身の無い空の米俵が並べられてあり

ヘイクロウはその上に両腕を頭の後ろに仰向けになっていた

目を閉じていないのは木箱の上から音も無く現れたアキヨリの顔にすぐ気付いた事で分かった


「アキヨリ殿…」


「ほほぅ これは落ち着くな

俺も寝床は狭いのが好みだ

隣空いているか?」


「はっ…空いて御座る…」


ヘイクロウは迷惑そうな それでもほっとしたような顔で答えた


「荷積みも手伝わずに良い寝床を使わせて貰ってすまんな

ほう これはいい具合だ

家に持ち帰って毎日これで寝たい位だ」


アキヨリ達が便乗した商船は甲板の無い弁財船という和船で当然積荷を覆う屋根は無く

ヘイクロウの横に同じく仰向けになったアキヨリの目には秋の星座が映った


「この時期 南の地平…

いや 水平線だな

鶴の星座が見えるのだ」


「どこで御座ろう?」


アキヨリは指を差さずにいるのでヘイクロウには鶴の星座のありかの見当がつかない


「………」


「アキヨリ殿?」


「…………」


「あれで御座ろうか?」


「…………」


「観念いたした!

何か申して下され」


「あっ?

すまん 瞬間的に眠ってしまった」


「何と!拙者の心中見透かし気にかけて来て下さったのでは?!」


「はははっ

そうなんだが真面な寝床は久しぶりでな

許せ 許せ

それに俺の心中見透かしているのはお前の方だ はははっ」


「ぬぬぬ」


「ああ そのなんだ…

腕の怪我はもうすっかりいいようだな

此度は一人での役目だったようで大変骨折りであった

ジョスイも人使いが荒い

一人では怪我などすれば身動き取れぬ

そうであった

お前の様子がおかしいからダンザが怪我でもしたのではないかと心配していたぞ」


「ぬぬぬっ!

怪我なら いたし申した

女郎屋の屋根裏で盗み聞きした後脱け出す際に屋根から落ち強かに尻を打ち申した」


「あはは あはは!

そんなのはお前にとっては怪我の内には入らんだろう

しかし話がどんどん俺の目論みから遠ざかっていくな」


「星座を引き合いに話のきっかけにしたかと思えば

なんと あけすけな物言い

しかし遠ざかるどころが核心で御座る

拙者が屋根から滑り先は女郎屋の中庭で御座った

思いの外でかい音が鳴り

さすがに気付かれたと物陰に隠れようと立ち上がろうとしたが

余りの尻の痛さに悶絶していたところ拙者に覆い被さる物が御座った

一体何事かと太刀に手をやると女の声でじっとしているように言われ申した

言われるままにする他あるまいと腹を決めると

戸が開く音と共に何事だ曲者かと男の低い声

すると先程の女が

また猪が迷い込んだと言うと男は舌打ちし また戸が閉まる音

もう大丈夫だと女に促され拙者に覆い被さる物を振り払うと

それは女の着る振袖で御座った

女の怪しげな微笑が目に入ったかと思うと振袖の代わりに煙草の煙が拙者に覆い被さり

あいつら嫌な奴だからお侍さんの事助けてやったのだと早く逃げるようにと言われ

拙者は一目散に塀を越え女郎屋を後にいたした

町を抜け山林へと走る拙者の頭には女の顔がずっと離れず

ただ役目を果たす為逃げる為それだけに躍起になっていた拙者が

やっと離れぬ理由が分かったのはケヤキの大木の影にへたれ込んだ時で御座った

刺々しい柄の振袖とませた化粧をして御座ったが

童と呼んでもよい様な年の頃の娘で御座った…

今になってもう一つやっと分かった事が御座る

あの煙草…

ただの煙草では無かったので御座るな!」



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