お持ち帰りですか
真昼の陽光の中風呂敷包みがアキヨリの背中で小刻みに揺れている
中身はゲンに持ち帰るよう頼まれたホウライ山の土である
小刻みに揺れているのは走っているからであり
小刻みなのは道が平坦で凹凸が無いからである
倒れた陶製の塔の上を走っているのだ
塔は倒れた衝撃で潰れ砕けてしまったが
倒れた状態で上になる外壁は上手い具合に壊れず残り
草鞋を投げ捨ててしまったアキヨリにとって
走るのが楽な平坦な道となっていた
数刻前アキヨリは多々良の力を増幅させる例の装置をもう一度確認しようとしたが
やはり塔の外壁同様粉々になっており
どれがどの破片かなど見当がつかなくなっており下山を決意したのであった
風呂敷包みを見つめ走るダンザが言う
「若様よろしいのですか?
お屋敷をよく探せば燃え残った物を見付けられるかも知れなかったのではないのですか
持ち帰れば皆様喜ばれましょう」
「よい
再びあの地に皆集まり
あれこれと意見を出し合い屋敷を再建すると決めたのだ
ゲン
タノスケ
チョウキチ
オタマ
マイ
そしてリッカ
さらに義母上
皆があの地に揃うまで俺は何も手をつけん!」
「左様でしたか
出過ぎた事を申しました」
「気に病むな
言わぬ俺が悪いのだ
手を付けぬと言っておきながら持って来た物もあるしな」
アキヨリの腰の手拭いはジャリジャリ音が鳴っている
何かの破片を持ち帰るのだろうか
「アキヨリ殿ちょっと不用心じゃありゃしませんかね
良ーく目立ってますぜ」
先程から視線の落ち着かないキリュウが言った
「いいや用心しているよ
突然巨大な塔が現れて倒れたのだ
トミナリ城からナリカワの兵が様子を見に来ているだろう
ほらあそこに」
と言ってアキヨリが指差す一町程先に馬に乗った侍らしき身なりの五騎が山道を登ってきている
甲冑などの武装はしていない
「二人共見えるか?
リヨウは少し隠れていろ
しかしやけに細い連中だな
おそらく倒れた塔の様子を調べに来たナリカワの文官だろう
いいところに来てくれたな
昨日から走り通しでくたびれたし
何より俺は裸足だ
これでもう走らずにすむな
おおーい!
そこの五人連れ」
「ばか!」
いきなり敵に声をかけたアキヨリに狼狽したキリュウの口を思わず(ばか)がついて出た
「何者だ!」
五騎の先頭を行く烏帽子の男の口調は高圧的だった
と同時に予期せぬ事態に出会した狼狽も含まれた(何者だ)だった
五人の騎馬は辺りを見回している
潰れた塔は高さ十尺(約3m)程あり
上から声をかけられるなど予期していないのか
アキヨリ達を見つけられないでいる
「ここだ ここだ!」
何者かと問われ自分の所在を答えたアキヨリは
五人の視線が自分辿り着きやいなや塔を飛び降りた
ドスッ!
そして五人の中心に着地した
「うわああ!」
「ひっ!」
「ぶっ!無礼者!」
五名共鼻の穴に蜂の巣を突っ込まれた如く慌てふためく
アキヨリは顔をにやけさせまいと堪えながら言う
「いやいや失礼した
だが俺に向かってその物言い
無礼者はお前等の方だ
だが馬を貸すと言うなら不問といたしてやる
今直ぐ城に戻りヒデサト殿にこの塔の事 報告せねばならん
ほれ三頭こちらに渡さんか」
ふんぞり返り威厳に満ちたアキヨリは無い口髭を右手でしごいた
「ははっ只今!」
呆気なく差し出された三頭の馬に当たり前の様にアキヨリが跨ると
飛び降りて来たダンザとキリュウも当たり前の様に跨った
「大義である
そなたらの事重く用いる様ヒデサト殿に進言しておく
ではな」
走り去るアキヨリ達を見送る五人は誰と無く呟く
「何処の何方だったのであろう?」
「あははははーっは!
しかし冷や冷やしたな」
見事に手綱を操り平坦な道を行くが如く進むアキヨリ
「冷や冷やしたのはこっちだよ!
暴露ちまったらどうする積もりだったんでえ!」
アキヨリに振り回されるのに慣れたのかキリュウの言葉にはそれ程怒気は含まれていない
ダンザはただ生暖かく笑っている
「一緒にサカイまで御同行願うのが一番だな
俺がここに来た事をナリカワに知られるのはまずいからな」
「ったくよう!
あれ?
いいんですかい?
大王さんにまた帰りに寄るって言ったじゃねえですか」
塔が立っていた結界の岩場に差し掛かってもアキヨリは全く速度を落す気配が無い
「面倒になった
義父上は場所を問わず
ここぞという時にあの小屋に招いて下さるようだ
大王にはまだ尋ねたい事があるがその時でよいだろう
俺がやるべき事はもう分かった
振り向かず一心に取り組むだけだ」
「やはりそう来たかアキヨリよ」
「えっ?」
ドスッ!
頭上で名を呼ばれたかと思ったと同時にアキヨリの背中に何かがのしかかった
「あんた誰だ?!」
振り返るとアキヨリの後ろに女が乗っている
みすぼらしい身なりだが薄汚れた感じは無く気品の様なものも感じる
そして何よりアキヨリに勘付かれずその背にのしかかった
只者では無い
ダンザとキリュウは呆気に取られていたが
取り立てて何もする様子は無い
後ろ姿に見覚えがあったのだ
「誰だと聞かれようが朕は己が名を直ぐに忘れてしまうと言ったではないか」
「華奢な御仁とは思っておりましたが
大王は女人だったので御座か?!」
「失礼な男と女の区別もつかぬか」
「暗い部屋の隅に居られましたら
顔も良く見えませんでしたし
声も残響して幾重にも聞こえたものですから」
「まあその様な事はどうでも良い
このままサカイとらやまで連れて行け」




