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六角の花   作者: フミ
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五里霧中

「まずいな霧が深え

シジマの奴らは何して来るか分からねえ

既に川を渡って来てるかも知れねえ

おめえ等充分注意しろよ!」


馬上のキリュウ マサナオは霧で全く視界の効かない対岸を睨んでいる

前日の夕立がもたらした

むせかえる様な湿気は日が昇り始めたにも関わらず

突き出した自分の槍の先端さえ見えない濃霧に姿を変えていた


対岸にはシジマ家ナリカワ家の連合軍が陣を構えている

筈だ


「下手に動け無えのは奴等も同じだ

視界が効か無えなら音だ

川を渡って来るからには全く音をたて無えなんてなあり得ねえんだ

こっちはもう臨戦態勢でいる返り討ちにしてやるぜ」


静かだった

当世具足の黒鉄に結露が雫になって滴り落ちる音さえ聞こえてきそうな程無音だった


耳の奥で何か鳴っている

耳鳴りかと思ったが

昨日から耳にこびりついた

赤い甲冑のいけすかない若僧の奏でる忌まわしい笛の音だと気付き

それを振り払わんと槍を一閃すると

結露していた槍は滑りキリュウの手をすり抜けた


「しまった!

俺の槍!

どこだ?!どこに落ちた!」


バシャ!


川まで飛んで行ってしまったようだ

馬を下りさっきの音を頼りに

川に手を突っ込むと呆気なく槍は手に触れた

その時だった


「騎乗しろうい!

俺に続けえええい!!」


おおおおおおおおおおおお!!


いけすかない若僧と五百程の鬨の声が轟き渡った


「対岸からじゃねえぞ!

ご丁寧に音がしねえように馬に草鞋履かせて

奴等夜の間に川上から川を渡って来てやがったんだ!

あれ?!」


キリュウは拾った槍を再び落としそうになった


「何で俺は知ってるんだ?!

そうだ!

急がねえと!

俺がもたもたしててアキヨリ殿を止められ無かったんだ!」


馬に跨り腹を蹴ったキリュウは風きり音を感じ咄嗟に槍をかざす


ギャリリリン!


「見事!

不意打ちしておいて名乗るのもおこがましいが

タガ カゲナリと申す!

名乗られい!!」


「オウミの旋風にしてシジマ アキヨリの片腕キリュウ マサナオとは俺がことだ!!」


霧の向こうには緑の甲冑が微笑んでいた

キリュウの頬も緩んでいたようだ


「ずっと考えてたよ

間欠泉のとこで手招いてたのはおめえだよな

義母上さんに直してもらったおめえの像を見せたかったんだよな

タキ!」


「アキヨリ様の片腕は俺だ」


「そうだったな…

なんか悪りぃなその…なんだ…

アキヨリ殿は変わったよな

何でもかんでも一人で抱え込んじまう人だったよな

それが正面切って力を貸してくれって言ってくれたよ

昔の事は良く知らねえけどよ」


「お前が妬ましい」


「うう…

だがよ謝るのもおかしな話じゃねえか?」


「ふふ 冗談だ

礼を言いたかったのだ

アキヨリ様が変わられたのは

王たる資質に目覚められつつあるのは

キリュウお前の真っ直ぐさに触れたからでもある」


「褒め過ぎじゃねえか?」


「ああ 褒め過ぎだ」


「アキヨリ殿といいおめえといい

人を手玉に取るのがよっぽど好きらしいな」


「アキヨリ様は無意識でやっているのだ

難解なところもあるがアキヨリ様の事どうかお頼み申す」


「心配無えよ

なんて言ったらいいか分かんねえが

もう心配するんじゃねえ」


「かたじけない…

ではさらばだ」


「待てよ!

アキヨリ殿やダンザに会わなくていいのかよ!」


「奥方様の力を貸りてお前の夢の中に参った

故にそれは叶わぬ」


「なんでだよ!

なんで俺なんかに会いに来てくれたんだよ!

待てよ!

礼を言いてえのは俺の方だ

牢を破って逃げる俺をとっ捕まえて

タネフサ様の槍を持たせてくれたじゃねえか

あん時は言えなかったがよ

ありがとよ!ありがとよぉぉ!!」


「やかましいぞキリュウ!

朝っぱらからでかい声で寝言を言いおって

この馬小屋はこの世で一番寝心地の良いところなのだ

もう少し寝る…

ぐごぁぐごぁ〜」


飛び起きたキリュウが見たのは二度寝しイビキをかくアキヨリだった


「あんたのイビキの方がうるせえじゃねえか

あれ?

何か夢を見てた筈なんだが

思い出せねえ

ああ!

大事な事だよ忘れちゃいけねえ事だよ!

ああああああ!」






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