二つを一つとして一人の人間として
門をくぐる
それはある意味 目視出来ぬ異世界へと踏み出す行為といえる
立ち尽くしていたアキヨリが急に駆け出したのは何かを発見したに違い無い
細心の注意が必要である
「俺が先に行ってアキヨリ殿を追いかける
ダンザおめえは目がいい
何か見つけたら俺に知らせるか
鉄砲でぶっ放すかしてくれ」
身を低く前傾して走るキリュウはいい終わる前に門をくぐって行った
「おう 安心して突っ走れ
しかしおかしい
若様が曲者なり見つけたのなら俺達に指図も無しに一人で行ってしまうなどありえん
ナリカワの兵が潜んでいるかとも思ったが
剣呑では無いのかも知れんぞ」
「油断大敵だぜ…
くそっ!
頭じゃ分かってたが実際見てみりゃこりゃひでえ
アキヨリ殿が棒立ちしてたのは無理も無え」
門をくぐったキリュウの目に映るのは黒い屍だった
若き陶芸家達が暮らした屋敷は数ヶ月前には確かに命を宿していた
住む者の喜び悲しみや日々の営みはその屋敷の命だった
炎に焼かれた柱や梁は瓦の重さを支える強度を失い
武家屋敷を思わせる瓦屋根は
上から巨大な力で押し潰されたが如く瓦解し
屋根を象っていた瓦の群が地面にイビツに横たわった屍は
焦げ臭い死臭を放っていた
「アキヨリ殿に何て言ってやったらいいんだよ
なあダンザ教えてくれ
おめえはガキの頃からの付き合いだろ?!」
キリュウは走るのをやめてしまった
何者の気配も感じなかったし
気力を奪われてしまっていた
「かける言葉など見あたらん
このまま手付かずにする他ないのが心苦しい
しかし若様はどこだ
この屋敷の様子より気に掛かるものとは何だ」
キリュウと同様に立ち尽くすダンザが辺りを注意深く見回すと
屋敷の北側の坂道を登って行くアキヨリが見えた
「いつの間にあんな所に
なるほど その先の高台に向かっておられるのか
ん?!
キリュウ見ろあれを!」
高台を指差すと同時に駆け出すダンザ
「何だよ?
んんっ?!
具足着てんのかあいつら
十…十一…
何人いる?!」
「十三だ!」
高台に武装した一団を目撃した二人は再び臨戦態勢をとったが
走り出してすぐに気の抜けたように速度をゆるめ早歩きになっていた
「キリュウお前にも分かったか
どうやら作り物らしいな」
「瀬戸物みてえだが一つ二つ変わった感じのやつがあるな
なんだありゃ?」
「分からん
行けばわかるだろう」
健脚の二人は間を置かず高台の上へと辿り着いた
そしてアキヨリとリヨウの背中越しに見た
そしてそれらの名を呼んだ
「凄え!
また殆ど本物だ!
こりゃタキだな
皆見た事あるぞ
えらい強かった奴等だ!」
「タキ!
コウ
それにサネモリ
お前はチュウベイ
シゲハル殿
マゴイチ
コヘイジ
ヒデナオに
ムラシゲ
テルナリ
トモノリ
カズナリまで…
何と雄々しい姿だろうか
戦地での皆の姿が目に浮かぶ
それに引き換え逃げ出す瞬間を象った様なひょっとこ踊りの小柄の御仁は誰だ?
若様これは一体?!」
振り向かず背中で答えるアキヨリ
「ここまで俺に着いて来てくれた皆をリッカが蘇らせてくれたんだ
だがおかしいんだ」
アキヨリは一歩二歩と歩を進めタキの肩に手を置いた
「冷たい…
ここを立ち去ろうという時
ナリカワの乱破素っ破の者がタキの陶像を叩き割って俺達を足止めしようとしたんだ
だがこうして元の姿で俺の目の前にいる
そしてタキを叩き割ってくれたクソネズミがこいつだぁぁぁ!!」
アキヨリが肩に担いだのはダンザが何者かと尋ねた小柄な十三体目の陶像だった
像の人物は
身の丈四尺五寸
離れた細い目
四角い顔
痩せた猫背
顔には恐怖というには生易しい凹凸が刻み込まれている
今その瞬間だけ切り取ったなら無法者に投げ飛ばされ
目の前に迫り来る岩に恐怖する小男である
グワシャアアアン!!
タニザワ ヤノスケの陶像は赤黒い破片になって四散した
陶像ではなかったのだ
凍像だったのだ
凍ったタニザワ ヤノスケそのものだった
アキヨリは再びタキの肩に手を置く
「凍っている
氷が破片を繋ぎ合わせてくれている
そして俺の手に温められても少しも溶けない
凍ったまま一夏過ごしたのだ
そして未来永劫この形を保ってくれるのだ
御山の守人の力だろう」
ダンザとキリュウの二人もタキの像に触れ
その冷たさと全身に這うヒビを手に感じ目に映した
「若様これらはソヤカ殿が?」
「間違い無いだろう
タキを元の姿にしてクソネズミを仕留めてくれたのだ」
「義母上さんは俺達を殺そうとしたじゃねえかよ!
なんでだ!
俺はどうしたらいいか分からなくなっちまったよ!」
真っ直ぐで考えないキリュウは顔をよじらせ考えて考えた
ソヤカの心情をどうしても理解したくなったのだ
今のキリュウには無理だと知りながらも




