秋の花
リヨウがはしゃいでいる
山道を飛び跳ねる様に走りアキヨリ達を従え先頭を行く
彼がはしゃぐ理由は二つあった
まずはアキヨリが脳天に石をぶつけて仕留めたイノシシを皆で食し胃袋が満ちている事
二つ目の理由は腹が膨れて飛ぶのがおっくうになり
アキヨリの後をこの先どこに行くのかと
のしりのしりとついて歩いていたが
やがて見慣れた道に出て
その道がどこに続いているか
どこに向かっているかが分かったからだった
その喜び飛び跳ねるリヨウの一歩一歩が
アキヨリの胸を雑巾を絞るが如く捻り締め付けた
「リヨウ」
雑巾からはリヨウの名が絞り出された
しかし知らぬ顔の喜びの一歩一歩は止まらない
「リヨウ聞こえないのか」
アキヨリの声は少しだけ語気が強められ
リヨウの背の羽がピクリと僅かに逆立った
聞こえたのだろう
だが聞こえたことを帳消しにするように喜びの一歩一歩は止まらない
「聞けと言っているだろう!
戻れる訳ではないのだ
また皆とあの屋敷で暮らせる訳ではないのだ!」
「若様!」
「アキヨリ殿!」
少し離れて歩いていたダンザとキリュウは言葉でアキヨリの肩を掴み黙らせ
アキヨリは束ねた髪に十本の指を突っ込み頭を抱え天を仰いだ
「すまない
惨い物言いをした…」
「若様リヨウとて分かっておりましょう」
ケェーケェー!
抗議するように吐き出す鳴き声と
くちばしがアキヨリの胸をど突き続けた
「すまないリヨウ…」
リヨウの頭を両腕で包んだ後肩に乗せたアキヨリが指差す先には温水が噴き出している
皆黙って歩いた
十二の勇者と十二の軍馬の眠る墓標は目の前にあった
「タキお前のお陰で皆無事にサカイに辿り着いたぞ」
アキヨリは片膝をつき墓標にささげられた陶製の白い花を手に取った
そして手ぬぐいを取り出し風雨にさらされた汚れを拭き清めた
「コウ
サネモリ
チュウベイ
シゲハル
マゴイチ
コヘイジ
ヒデナオ
ムラシゲ
テルナリ
トモノリ
カズナリ」
アキヨリは続け様に名を呼び
十二の花のくすみを手ぬぐいで拭き取ると
その手ぬぐいの汚れさえ愛おしそうに懐にしまい立ち上がった
参らねばならぬ墓標はここだけではないのだ
「若様今暫く」
アキヨリが立ち去ろうとした気配を察したダンザが目を閉じたまま言った
タキの前に座り込んで無数の言葉を交わしていたのだ
初めて会った幼きあの日
三毳山に沈む夕日
初陣
そして幾多の戦場
共に過ごした時間は血塗られた記憶を伴ったが
そこには夢があり笑顔もあった
その全てを目の前に並べ終わるまで立ち上がれはしなかった
その後ろで手を合わせたキリュウも小便以外にはその場を離れずにいた
最後の一つ馬上のタキの後姿を並べ
目を開けたダンザが見たものは
白い陶製の花とアキヨリがどこからか摘んで来た薄紫の桔梗の花
二つの花は夕日の赤を帯びていた




