翼持つ者持たぬ者
「リヨウ合図をくれ!」
そう言ったのはダンザ
先程までの狼狽えた様子は微塵も無い
迫り来る危機が彼を生きながらに死する戦人にした
アキヨリに先を譲るといった一悶着もしない
全員生還するそれ以外に何の意味も無いのだ
ダンザがもしこの危機に命を落とした場合全ての責任を我が物としアキヨリがとるであろう行為
それはダンザにとって己の死より恐るものだった
ビョロロロロゥ!
リヨウは必死に羽ばたき高度を上げて鳴く
いつでも来いと
「行くぞ!」
ダンザはアキヨリのすぐ側をかすめ
駆け抜け様に壁の破断面を蹴り空中に飛び出した
「ダンザまだ早い!」
一旦待てとダンザを掴もうとしたアキヨリの手は空を切った
ダンザの返事は少しだけ振り向いた微笑みだった
リヨウとの高低差はまだ半町(50m)程ある
だが関係無い
リヨウが来いと言っているのだ
両手両足を広げ真っ直ぐに自分に向けられる
ダンザの視線と信頼はリヨウの何かに火をつけた
その視線と翼が交差する刹那
お互いの落ちようとする慣性と上昇しようとする慣性が打ち消し合い互いの体に衝撃が突き抜ける
だが関係無い
リヨウは燃えているのだ
僅かに勝った落下する慣性を横方向にいなし
キリュウの待つ杉の大木へと翼を向け
二つの慣性を柔らかな落下へと移行する事に成功した
キリュウより三貫(約11kg)程体重の軽いダンザを杉の大木に軟着陸させるのは間違いないだろう
「リヨウ ダンザあっぱれ!」
一息ついたリヨウがアキヨリの声を耳にし振り向くと塔は既に壁の穴を下に
比較する物が無くても分かる程傾き
声の主のアキヨリは穴からしがみつく様に身を乗り出していた
「若様!」
それはダンザも目にしていた
「ダンザ リヨウ前を向け!
何を引きつった顔をしている
俺が落ちるとでも思っているのか?!
落ちたくらいで俺が死ぬとでも思っているのか?!」
いつもの訳の分からない自信を撒き散らすアキヨリにダンザは訳の分からない安心をした
「そりゃ死ぬだろうよ
しかし今やるべき事だ
リヨウ さっきキリュウが掴まった木は粗方枝が折れてしまった
隣だ隣の木に下ろしてくれ!」
ビョロロロ!
死と隣り合わせの危機は両者の集中力を寧ろ高め
実に精密に的確な距離と角度でダンザは放たれ緑の群に突入して行った
ダンザは先ず一つ目の枝を足で踏みつけ
枝が限界までしなると次の枝に両手で掴まり
掴まった枝が限界までしなると手放し次の枝に降り立つを四度繰り返し
ほぼ無音で落下の力は自重だけになった
そして隣の木で体の至る所から杉の葉を生やしたキリュウを涼しく一瞥した
「ダンザ余裕こいてんじゃねえ!
アキヨリ殿ぉぉ!!」
振り向いたダンザの目には死に物狂いで羽ばたくリヨウの先に山の斜面側に倒れ行く塔が映った
壁にあいた穴にアキヨリの姿は無かった
「若様!若様ぁぁ!!」
「ダンザどこ見てんだ
そっちじゃねえ!」
ダンザがキリュウが指差す先にアキヨリを見る事は出来なかった
三本隣の新に燃え上がる杉の大木の激しい炎に遮られたのだ
「うああああああ!!」
キリュウは半狂乱で木を下り始めた
ダンザはそれをぼんやり見ていた
手足は幹をつたい木を下りていたのだが全く実感が無かった
「落ち…た?
若様が…」
やっとダンザの脳が言語を搾り出した時だった
ドオオオオオン!!
爆発音が響き渡りダンザの耳には耳鳴りだけが居座り
再び脳は言語を拒否した




