優しそうな頑丈そうな
ビョロロロロゥゥ!
リヨウの返事はアキヨリに真っ直ぐに向かっては来ない
的を僅かに外したような感があった
「若様リヨウが来ているのですか?!」
「ああ 何故来ているかは分からんが
異変を感じ探っているようだった
俺が巻き込まれているに違いないと思ったのだろう
先程名を呼ばれた
そちらからは見えんだろう
リヨウこっちだ!」
リヨウを導く炎が太陽に向かい一直線に伸びて行く
敵の存在を警戒し
常ならぬ気配と太陽の間に身を起き隠すのがリヨウの常だ
ビョロロロゥ!
翼の影は爆発的に倍化しアキヨリに覆い被さる
「リヨウ左に旋回!」
翼は反射的に反応し向かって右に傾いた
もう影ではないリヨウの目そして羽の文様も確認できる
そして間を置かずリヨウの目に驚愕が映りビクりと震える
塔の結界内に突入し巨塔を目の当たりにしたのだ
ピキィーピキィー!
リヨウは抗議するように鳴き
急降下そのままの速度でアキヨリをかすめ通り過ぎる
アキヨリの茶筅髷が暴れなびきリヨウを一旦見送る
「すまん驚かせたな
だが俺が悪い訳では無いぞ」
聞いてか聞かずか
リヨウは大きく旋回し塔を一周し
壁の大穴の手前で翼を進行方向に向かい羽ばたかせ急停止し
アキヨリのすぐ横の壁の破断面に自慢の爪を食い込ませ
翼をたたみ首を上に向けた
首には紐で西陣織の小さな袋がぶら下がっている
「何だサカイからの急な報せか?!」
ひったくるように手に取り袋の中身に指を突っ込むと手紙のようだ
広げてみるとゲンの字で
出掛ける折 頼み忘れ申した
ホウライ山の土
三斤ほど持ち帰られたし
駄賃はこの手紙包みし袋
ゲンノスケ
と綴ってあった
「なんだ そういう訳か
だが今はそれどころでは無い
いいかリヨウよく聞け!」
アキヨリの手がめまぐるしく動く
リヨウとの会話は手話が主で
言葉より正確に伝わるのだ
手の動きが一区切りつく度にリヨウが頷く様は
見慣れないキリュウには微笑ましく見えた
「生きるか死ぬかの土壇場だってのにほのぼのしてきたぜ」
最後にアキヨリは手話では無く
左手人差し指で林立する杉の巨木を指した
頷いたリヨウはキリュウ次いでダンザを見やり
とまっていた破断面を蹴り宙に身を踊らせ羽ばたいた
「キリュウ来てくれ!」
キリュウは躊躇した
理由はリヨウの目がこちらに向けられた時
くちばしの端が吊り上がり
ニヤリと笑ったように見えたからだ
「なんだか薄気味悪ぃなあ
早く思い付いた策を聞かせてくだせえよ」
「聞かせやるから来い」
「へいへい
これでいいですかい」
手の届くところまでにキリュウが来るとアキヨリは弾けるが如く叫ぶ
「リヨウ合図しろ!!」
ビョロロロロゥゥ!
「行くぞおお!!」
兄イエナガに嫌になる程幾度も幾度もしごかれ教授された
一連の神業的動作をまたしてもキリュウは目で追う事も出来なかった
肩車であった
「うわああああああああ!!」
キリュウは宙に身を踊らせ羽ばたいた
アキヨリに投げられた斜め上方向の力は直ぐに重力と均衡し
嫌な浮遊感がキリュウを支配した
「のおおおん!!」
浮遊感の次は腰から引き抜かれる様な加速感と暴風であった
やっとの思いで腰の辺りを手で探ると硬く鋭い物に触れた
リヨウが腰帯を掴み羽ばたいていたのだ
だがキリュウ程の大男を掴んで飛べる訳は無い
飛ぶと言うより落下に近かった
「落ちてんじゃねえかよ!」
「キリュウ良く聞け!
リヨウが杉の木までお前を運ぶから
優しそうで頑丈そうな枝を見つけてしがみつけ!」
「逆だ!順番が逆だ!
リヨウへの良く聞けと俺への良く聞けが逆だあああ!!」
緑の集合体が押し寄せて来る
「うおおお!
腹決めたぞ!
リヨウそれだ!その枝だ!
優しそうで頑丈そうだ!」
ビョロロ!
「行っくぜええ!!
リヨウ離せ!!」
リヨウは優しそうで頑丈そうな枝の直前で
千切れんばかりに羽ばたき
落下速度をぎりぎりまで殺した後
更に上方に蹴り上げるように腰帯を離した
空中に孤立無援となったキリュウは恐怖のあまり手足をバタつかせ
優しそうで頑丈そうな枝に突入して行った
真顔で
バギバギバギバギバギバギ
優しくも頑丈でもなかった
枝は落下するキリュウを支えきれず次々にへし折れていく
「こんちくしょう!!」
ズカっ!
槍が大木の幹に突き刺さる
キリュウはその槍にぶら下がり
「やってやったぞおお!!」
と叫んだ
「あっぱれ!!
次ダンザ!」
「えええええ?!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴ…クカァン!!
地下からの重低音に弾けるような高音が混じった
グムグムグムグム
根元の土壌を押し退ける様な感覚と共に遂に塔は傾き始めた




