幸運は諦めない者に
厚みのまばらな塔の壁に熱を与え
膨張率の差により破壊する
塔は巨大である
相当な熱量が必要だろう
しかしアキヨリにはその熱源のアテがあった
「窓から外をうかがって先ず空しか見えなかったのには驚いた
昨日の晩まで視界にあった塔の周りに林立する杉の巨木達は遥か眼下だった
まずは杉の木の高さまで降りなくてはな」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
地下よりの重低音は現実味を帯び塔の中心にそびえる円柱を駆け上がって来た
「いよいよだぜアキヨリ殿!
俺達はどれくらい降りて来たんでえ?!
窓を見る余裕なんか無えからよ」
「まだ昨夜の高さにも及ばぬ
しかし落ち着け
勝機は充分にある!
余計なものは脳味噌から追い出せ
やるべき事を最高の質で成し遂げる
それだけを考えろ
もう少しだ踏ん張れ!
後一町(約100m)降りた所に穴を開けるぞ
そこだ!」
アキヨリの人差し指より火炎が放たれ
彼等の目指す一町下の壁にまとわりつく
「若様あそこまで行けば もう走らずに済むのですか?!」
「分からん!
余力は残しておけ」
「やれやれ…」
ゴゴゴゴゴゴ!
円柱の響きは直ぐ真横にまで迫った
だが塔が傾く気配はまだ無い
「何だこの音は」
「アキヨリよー!」
地下よりオオクニヌシ
「大王なんでしょうか」
「壁を熱により破壊するのだな
よく考えた!
そなた達の所まで響く音は地下水の遡る音であるぞ
円柱の中心は空洞になっており
地下水の層に突き当たった場合
邪魔にならぬよう汲み上げる仕組みになっておる
お前の熱した壁に円柱に穴を開け水をぶっ掛け急激に冷やせば効果覿面ぞ!」
「心得ました!
聞いたか二人共!
諦めない者には幸運の力添えがあるのだ!!」
「いい感じになって来たぜえ!」
最早キリュウの足が階段に触れているのはほんの僅かである
十段程を一跨ぎでほぼ飛び降りているような走り方である
「流石だなキリュウまさに旋風ぞ!
ん?…」
「若様いかがなさった?!」
「ダンザ余力など残すな!
全力で行けえ!」
「さては幸運の上乗せですな
では置いて行きますぞ!」
ダンザの小袖の上に羽織った陣羽織が千切れんばかりにはためく
「言ったな!
この俺を置いてなど行けぬぞ!
しかし邪魔だな この破れた草鞋は」
アキヨリがヨシツネとの戦闘で破れかけた草鞋を脱ぎ捨てると
「アキヨリ殿ここですかい?!」
キリュウは既に壁にまとわりつく炎に到着し槍を構えていた
「そこだ!
そしてダンザそことそこだ!」
炎は三つに分かれ鉄砲の的となった
「承知いたした!」
バァン バァン!
立て続けに火を吹く馬上筒とダンザ愛用の大狭間筒
「行っくぜえええ!
どりゃあああああ!!」
グギャアアアン!
金属音を響かせ壁に突き刺さる槍
いや 突き刺さってはいない
槍は人の頭程の穴を開け欠片を外へ吹っ飛ばしていた
「俺もやるぞおお!!」
アキヨリが窓から手を伸ばすと眼下に林立する杉の大木の一本が瞬く間に燃え上がり
炎は渦を巻きキリュウの開けた穴の辺りに導かれた
高低差は二町程あったがアキヨリには朝飯前のようだ
「ぬううううううん!!」
みるみる赤みを帯びる塔の壁
「熱っちゃちゃ!!
こいつは耐えらんねえ
ちょこっと退きやすぜ!」
「こっちに来いキリュウ
そろそろブチかますぞ!
ダンザそこだ!
ありったけぶち込め!!」
アキヨリの放つ炎は円柱に向かう
「言われずとも既に狙いをつけております」
バァン!バァン!バァン!
手持ちの馬上筒2丁大狭間筒が立て続けに火を吹く
バァン!バァン!バァン!
アキヨリは炎を操りながら
弾丸が発射された鉄砲をひったくり
火薬 弾丸を装填しダンザの手へと渡す
ダンザは振り向かず受け取り引き鉄を引く
バァン!バァン!バァン!バァン!
バァン!バァン!バァン!
バッキャバッグギャアアアン!
ブシャアアアアア!
ついに円柱の壁を弾丸が貫いた
陶の欠片が水飛沫と共に吹き飛び
熱せられた壁にぶち当たる
シュアアアアアアアアア!
おびただしい水蒸気が塔内に充満しアキヨリ達の視界を零にする
「こりゃ凄え何も見えねえ」
「二人共 念の為 頭抱え体を低く…」
ビキビキビキビキビキビキ
カッキャァァァァァン!!
アキヨリの指示は間に合わず壁にはヒビが入り
六畳程の面積が幾つもの欠片となり
周りとの繋がりを全て絶たれた
ガラガラガラガラガラガラ
そしてそれらは直ぐ様落下して行く
ビュウルルルルルル!
熱せられた塔内の空気は外気との気圧差により
瞬く間に水蒸気共々吸い取られ視界を回復させていった
グゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
壁の崩壊をきっかけとしたのか地下よりの重低音に拍車がかかる
「畜生!!
でけえ穴が空いただけで塔はビクともしねえ!
根元からぶっ倒れるのを早めちまったんじゃねえか?
アキヨリ殿もう一回やるか?!」
「無用!!」
アキヨリはダンザとキリュウを飛び越し
壁の大穴に駆け寄り身を乗り出し叫んだ
「リヨウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」




