道を示せ
示し合わせたりなどしない
真否など追求しない
三人はただ階段を駆け降りていた
数えきれない死地をくぐり抜けて来た三人は生死の関わる選択に躊躇が無い
全てオオクニヌシの思い違いで
もし塔が倒れなかったとしてもまた登ればよい
だがそんな論理的思考は走り始めて暫く経った後だ
反射である
熱い物を触った手が脳に (熱い) の文字が現れる前に引っ込むのと同じである
先頭を行くキリュウが階段を五段飛ばしで降り始めた頃
やっと後ろの二人やどれだけ降りられたかを気にし始めた
五段飛ばしは速度と安全面の一番均衡のとれた降り方のようだ
後は勝手に身体が動く
「アキヨリ殿!ダンザ!」
とりあえず一瞬だけ振り向き後に続く二人の名を呼んだ
振り向き目に入ったのは
既に確認出来ない程に小さくなった巨大タマネギ
均等に並ぶ窓からの陽光
走り降りるダンザ
その後にアキヨリ
充分だった
安心した
後は走るだけだ
だが何か引っかかる
何か足りない
足りないものを求めるようにもう一度 振り向くキリュウ
足りないものとはアキヨリの檄
たとえこの先やるべき事が分かりきっていても
道を指し示す何らかの言葉がある筈だ
「アキヨリ殿!…
どうしたんでえ?!」
アキヨリは遅れ始めていた
そして陽光の差し込む窓が真横に来る度しきりに窓外を気にしている
「まさか!
まさか怪我なさってんですかい?!」
キリュウの憂慮それ即ちヨシツネとの戦闘による走力に関わる怪我
「若様!!」
ダンザも異変を察知し振り返る
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!
増幅する地下より塔を揺るがす重低音がキリュウとダンザの焦燥をつつきまわす
「アキ!!ダン!!」
止まるべきか
止まればすぐ後ろに続くダンザともつれ合い落下する
キリュウの焦りは中途半端な二人の名となり口から飛び出した
「走れぇぇぇぇぇぇ!!」
アキヨリの大喝
「俺は怪我などしておらん!
すまなかったぁぁぁぁ!」
アキヨリは飛ぶが如く走り速度を取り戻す
とりあえずの安心がキリュウとダンザを再び全力疾走へと連れ戻す
そしてかける言葉を探す余裕を与える
だが用意した二人の言葉は砕け散る
「リッカァァァァァァァァ!!」
普段のよく制御され喉の決まった所だけを通り出るアキヨリの声ではない
その声は喉の通り道いっぱいに吐き出され
地下よりの重低音を掻き消した
「若様?!」
「アキヨリ殿?!」
直後に二人の疑問は砕け散る
「アキヨリサマァァァァァァァ!」
声ではない何かがアキヨリの眉間から響き渡った
「見えたぁぁぁぁぁぁ!」
「ははっ!!」
「おう!!」
「リッカが!
リッカの顔が見えたのだぁぁぁぁぁ!
東の峰の向こう
高い鉄と陶製の壁に囲まれ妨げられていたが
塔がそれより高くなったので見えた!
ドーマンは妨げるもの無ければ
距離などものともしなかった!
見えたぁぁぁぁぁぁ!
見てくれたぁぁぁぁぁぁ!
リッカも俺を見てくれたぁぁぁぁぁぁ!!」
「アキヨリ殿!
うおおおおおおおおおお!」
「若様ぁぁぁぁぁぁ!
しかしぃ!
しかし御いたわしい!
ほんの僅かではありませぬかぁぁ!」
「構わぬ!
見えた!
見えたんだ!」
バチン!バチン!
アキヨリの気持ちを切り替える己の頬への張り手
危機は去ってはいないのだ
「二人共 聞いてくれ!
どうやら思いの外
と言うよりも想像を絶する高さにまで塔が伸びたようだ
後どれだけで塔が倒れるかは分からんが
このまま走り続けては体力が持たん
もう少し降りたところで二人にやって欲しい事がある!」
「心得ました!!」
「そりゃ何でえ!」
「倒壊を少しでも遅らせるには塔の上部を吹き飛ばし
倒れ行く方向に掛かる重さを軽くするのだ
上手く行けば倒壊そのものを止められるやも知れぬ」
「若様しかしどうやって?!
この巨大な塔を破壊するなど
そのような事が可能なのですか?!」
「ドーマンでリッカばかり見ていた訳では無い
塔の壁には厚い所と薄い所が不規則にある
温度差を与えればかなり大きな穴を開けられる
二人は俺が示した所にクサビとなる弾丸と槍を撃ち込んで欲しいのだ!」
「承知!」
鉄砲に火薬と弾丸が装填され
「槍が折れたら修理代はアキヨリ殿持ちですぜ!」
槍の鞘は抜かれた




