区切り目
夜も更けた
塔の屋上にはさっき迄の馬鹿騒ぎは既に無く
静けさがあり三人の姿は無かった
いやあった
「アキヨリ殿もう眠りやしたか?」
キリュウの二つの目が開かれ夜の闇に現れた
「いや
まだ眠っていないよ
温まった陶の床が気持ちいいが
中々寝付けない
ダンザお前はどうだ?」
アキヨリの目が開かれ夜の闇に現れた
「考え事を少し…」
ダンザの目が開かれ夜の闇の現れた
月も雲に隠れ三人の六つの目だけがただ暗闇にあった
つまり仰向けに並んだ三人の顔は闇によく馴染む状態であった
「ちょうどいいや
俺もシジマ家の人間にして貰った今
けじめと言っちゃなんだが
二人にあん時の礼を言っときたかったんだ」
「あの時とはなんだ?」
「タネフサ様が俺を逃がしてくれた時さ
アキヨリ殿に担がれて意識がはっきりし始めて
暴れる俺に言ってくれたじゃねえですか」
「俺は何と言っか?」
「覚えてねえのかよ!
まあいいや
俺が覚えてりゃいいんだ」
「なんだ言わないのか
気になるじゃないか」
「へへ
覚えてないのが悪りいんだ」
キリュウは心の中で思い返していた
あの時のアキヨリの言葉を
「主君と共に戦い共に滅びんと欲すそなたの忠誠心は確かに天晴れ
しかしそれと
タネフサ殿の生きて乱戦を見届けよとの命
生きていて欲しい
希望の中に幸福の中にあって欲しい
という
武士の価値観を超えた
人と人との繋がりから生まれた願いとどちらが重きとするか!」
暗闇の中でキリュウの黒い口角が上がり
黒く太い眉毛がハの字になった
「度肝抜かれたぜ
およそ大名家の御曹司の言葉じゃねえや
思えばあん時からさ
あんたに惹かれてたのは」
怪訝そうに首を少し傾けこちらを伺うアキヨリにキリュウは視線を合わせた
「なあ教えてくれキリュウ
俺も若いというより子供だった
おそらく感違いも甚だしい物言いだったのだろう」
「そんな事ぁありゃしませんよ」
ガチャ
キリュウの胸の上にダンザの馬上筒が乗せられた
「何だよダンザ
言わなきゃぶっ放すってかよ?!」
「違う…
アキマサ様の目前まで迫ったタネフサ殿を撃ったのは俺の鉄砲だ…
詫びはいれん…
だが…」
「ああ
詫びなんか必要ねえよ
あの一戦は城の明け渡しが決まった後だろ
タネフサ様も宣言してたが
武士の一分を貫き通す我儘にシジマ家が付き合ってくれたようなもんだ
おめえが撃たなきゃアキマサ殿は討ち取られてたさ
ダンザおめえはあたりめえの事をしたんだ
おめえに礼を言いてえのはその後だ
あたりめえじゃねえ事をしてくれた
今際の際のタネフサ様に引き合わせてくれたじゃねえか
まあ最も俺はぐるんぐるんに縛られてたがな
もう言葉は交わせなかったが確かに俺を見てくれたよタネフサ様はよう」
「ああ…
だが あれは介錯しようとしたタキが言い出した事だ
呻くようにお前の事を頼むと言っていたと」
「そうだったのか…
なあダンザおめえの考え事分かったぜ
タキはこの山にいるんだろ?
墓参りしてえと考えてたんじゃねえか?」
「ああそうさ…
若様 行かせて貰う訳には行きませぬか?」
もちろんアキヨリもそれは願っていた
しかし見なくてはならなくなる
焼け落ちた第二の家族と暮らした第二の我が家を
故に再建の目処が立ってからとも迷っていたが決心したようだ
「行こう!
塔に俺の多々良の力を籠めその結果を見定めた後になるが
明日の昼過ぎには着くだろう
あの高台からはリッカの囚われし所をこの目に出来るかもしれぬしな」
三人が眠りに着くのを妨げるものは既に無く
辺りは只の黒一色になった




