打ち砕けず断ち切れず その名は絆
その窓から見える景色は数刻前から少しだけ変化していた
窓は腰の高さにあり
足をなげだし
やや膝を曲げ
窓枠に寄り添うように座り
その窓枠に右肘を乗せ
肘を窓枠に乗せた事により少しだけ上がった右肩に首を乗せるように傾け
窓から外を臨むと視界の中心に位置した塔の高さが高くなっていたのだ
右肩に乗った首には
黒く
美しく
長い髪が
窓から吹き込む秋風になびいている
髪がなびく度に青みがかった赤い唇が見え隠れし
唇からはため息が漏れた
もう塔を見るのが辛くなったのか
髪がなびく度に見え隠れする
青みがかった黒い瞳は
塔から窓枠に置かれた五つの歪な形の器に視線を移した
器は塔と同様に陶製であった
秋風に吹かれ乱れた髪を
青みがかった白い手がかき上げると
白い指は右から五つの器に一つ一つ触れて行った
器達には名があるのか白い指が器に触れる度に青みがかった赤い唇はその名を呼んだ
「ゲンノスケ…」
「マイ…」
「タノスケ…」
「チョウキチ…」
「オタマ…」
五つ目のオタマに白い指が触れた時
青みがかった赤い唇が震えだした
「わたしは取り返しのつかないことをしてしまったぁぁぁぁ…
もう会えない!
わたしはあの子達のかけがいのない人を…
殺してしまったぁぁぁぁ…」
ソヤカは両手で顔を覆い嗚咽を漏らした
その悲しみに窓から吹き込む秋風が追い討ちをかけた
秋風は無数の羽を運んで来たのだ
ソヤカは無意識に咄嗟に目を開け
羽を見てしまった
「ああああああああああああ!!
許しておくれアキヨリ!
許しておくれぇぇぇ…」
ソヤカを撫でるように飛び去り
あるべき所に向かって行く白い羽は真っ赤に染まっていた
「また泣いているよ」
「ソヤカはいじっぱりだからね」
「取り返しのつかないことなんかないのに」
からかう様な声はソヤカにまとわりついた
「お姉様達一人にしてちょうだい!!」
「おお怖い怖い
だけどリッカは笑っているよ」
「ソヤカは泣いているけど
リッカは笑っているよ
うふふふうふふふうふふふ」
「えっ!
なんですって?!
リッカは眠っているのよ
笑う筈なんてないのよ!」
しかしリッカは笑っていた
「うふふうふふうふふ
キリュウ様初めまして
リッカと申します」
声では無かった
しかし耳ではなくソヤカの髪に肌にその声は響いた
リッカは何を見ているのか
それは先程まで名を知らなかった仏頂面
キリュウの顔にアキヨリの筆がはしる
(キリュウ マサナオ 俺の新しい家臣だ)
「リッカ見えるか聞こえるか?!
キリュウ マサナオだ
たった今俺の家臣になってくれた
いいや 家臣である前に昔からの友であるな
なんと書いたら伝わるか」
更に筆は走りに走る
「もう何とでもしてくれ!
だけどこんなに酒癖悪かったかよ
アキヨリ殿はよう」
キリュウは胡坐をかいた膝に腕を突っ張り顔を突き出した不動の構え
「あーはっはっはっはっはっは!!
若様!
思いつくままに書いていたら
そうなるのは当然
キリュウの顔はもう真っ黒ではないか!
もう奥方様には何が書いてあるかなど分かりますまい
あーはっはっは!」
腹を抱えて転げ回るダンザ
「うふふうふふ
アンドウ様はお強いだけでなく
お優しく愉快なお方
おや…
キリュウ様はどちらに?」
夜の闇の中キリュウは目を開けた
「うふふうふふうふふうふふうふふ
目の前にいらしたのですね
本当に真っ黒
うふふうふふうふふうふふ」
「リッカ何が見えているの?!
何が見えているというの?!」
ソヤカは羽の行方を無心に追った
なぜなら彼女がアキヨリに差し向けたヨシツネの分身が羽となり帰還する
それはアキヨリの殺害を完了したという目的の達成だけを意味してはいないからだ
確認せずにはいられなかった
完全に目的の達成が叶わなくなったが為の帰還
もう一つの可能性は彼女が差し向けたにも拘らず今は希望となっていた
程なくしてソヤカが辿り着いた場所は
陶器と鉄で形どられた冷たい円形の
大広間
時計の文字盤の如く十二に仕切られた大広間の壁沿いに十二の勇者の彫像があった
その内の一つ首の無い彫像を見つけたソヤカは膝から崩れ落ちた
「ああああああああ!!
よかった
よかったああ!
アキヨリ生きているのね
リッカ アキヨリのこと見えるのね
ああああああ!
よかったぁ…」
大広間の中心に仁王立ちする勇者がソヤカを見下ろしていた




