海を目指せ
キリュウが飛び起き
ダンザが火種のカイロを懐から取り出し
アキヨリは片膝を立て太刀の鯉口を切る
しかしそれだけだった
すぐに三人は元の正座とふて寝の体勢に戻った
なぜか
三人は山吹色の陽射しの様な温かな匂いを
今度のヨシツネから嗅ぎ取ったのだ
先程の奇声を発するヨシツネから噴き出していた
臙脂色の寒気のする熱い匂いとは似ても似つかぬものだった
「ふぅ…」
一つ溜息をついた今度のヨシツネは申し訳無さそうにゴクラクサイの隣に美しい所作で正座した
背筋が伸びやや俯く様は赤い蓮の花の様である
蓮の花は言った
「ヨシツネである
先程は大変迷惑をかけた
アキヨリが我と同じ過ちを繰り返さぬよう
恥を承知で我の失態を見て貰った訳だが
かえって事を荒立ててしまい
こうして詫びに現れた次第
申し訳御座らん」
深々と頭を下げるヨシツネ
「詫びなど要り申さん!
ヨシツネ公の本意では無い事…」
「詫びて済むものか
ヨシツネお前のお陰で怖い思いをした」
アキヨリは自分の言葉に正反対の言葉を被せて来たオオクニヌシを睨んだ
オオクニヌシは皆に背を向けてしまった
「アキヨリいい加減にしろよう」
「大王を責めないでやってくれ
我に咎がある」
「若様さすがに気の毒
これでは話も進みますまい」
立て続けに諌められ自分も皆に背を向けたくなったアキヨリだが
少しだけオオクニヌシよりは大人だったようだ
「ううむ
失礼いたした
義父上ならば早速この塔の意義を教えて下され
見付けた折はリッカを救い出す手立てであるのではないかと心踊らせたのです
と同時に!
同時に…」
「どうしたい?アキヨリよ」
「塔は継ぎ目の無い陶製で御座いました
常人が何人寄ってたかっても造れる物では御座らん
操炎術にて義父上お一人で建てたのであると存じます
このような巨大な塔をお一人で
もしや義父上は御命を削り…」
またもやアキヨリは言葉を遮られた
「待てようアキヨリ
儂が建てたのは塔の上のちょこっとだけだあ
後は勝手に伸びてく仕掛けなんだ
うん そうだなあ
これではいつになっても話が進まん
えーと
また蛇足になるが気になるもんで一つだけ聞かせてくれ
アキヨリよどうやって塔の結界を見破った?」
「ドーマンの術に御座います」
「ほう!
ドーマンとな
操炎術を駆使して見破る方法もあるのだが
それを体得するには早過ぎるとも思ってたんだあ
しかしドーマンの方が確実だなあ
うん!
では塔の事 話して聞かせる
この塔は見た通り穴を掘っておる
なぜ掘っているかと言ったら道を作る為だあ」
「道を?!」
「そうだあ道だあ
火の神が封じられたホウライ山の真の山頂から海までの道を」
「意味が分かりませぬ」
「うん
結構苦労してやってきた事なんで
ちょこっとカッコつけて勿体ぶってみた
大王ちょっといいかえ?」
ゴクラクサイに呼ばれたオオクニヌシは何故か満面の笑みで振り返る
「朕の出番であるな
行くぞえ!」
アキヨリの目にはオオクニヌシより無数の手が現れるのが見えた
それは多々良の守人の力の具現化したもの
無数の手は結び合い繋がりゴクラクサイまで伸び
ゴクラクサイからは桃の花が咲き乱れ無数の手と繋がりアキヨリへと伸びる
「はっ?!」
アキヨリは咄嗟に無意識に自らの多々良の守人の力
すなわち無数の歯車を繋げた
「道とは多々良の守人の力を繋げる道なので御座るか?!」
「左様だ!」
立ち上がったオオクニヌシは急に威厳を纏い出した
「朕は太古の昔
火の神と同化しホウライ山に縛り続けて来たのだ
しかしそれも限界となりつつある
そこで一計を案じ海へと解き放つ事にしたのだ
火の神を解き放つすなわち火山の噴火である
地上の火山からの噴火は今迄抑え込まれ続けた膨大な量の溶岩の噴火を意味し
日の本を破滅に追いやること必定
だが海底にも火山はあるのだ
海底からの噴火であれば海底の生物達には気の毒であるが
地上の生きとし生けるものに甚大な被害をもたらした例はほぼ無いと言ってよい
しかし朕は火口より動くことまかりならん
偉大なる朕の多々良の力も海までは届かぬ
そこでナガヨリに協力を求めた
しかし鍛え抜かれたナガヨリの多々良の力も溶岩の滾る地底までは
岩盤やら地下水やらに邪魔され届かぬ
朕の力の届く範囲内で溶岩の通り道である火道に近く
尚且つそこから海までナガヨリの力が届くこの地に塔を建設することにしたのだ
ナガヨリはこんな調子故
己が口から絶対申さんから朕が申す
妻を娘をそしてアキヨリお前を
運命から解き放つ事が出来ると
それは懸命に命を削り取り組んでくれた
ナガヨリよ改めて礼を申すぞ!
そして次代を担う者達よ
この事胸に刻むのだ!」




