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六角の花   作者: フミ
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大切に大切に

秋の風が吹いた

刺すように熱く吸い込めば鼻の奥がヒリヒリする程の熱い風が塔の屋上に吹き荒れた


「アキヨリ殿すいやせんでした!

曲がりなりにも義母様にとんでもねえこと言っちまって」


「礼を言うぞキリュウ!

俺が言いたかった事だあああ!!

二人共気合いを入れろ!

来るぞ!!」


「おおおおう!」


「はっ!!」


ヨシツネの突進は陽炎を纏い

ダンザの鉄砲の標的とならぬよう左右に飛び跳ね

同時に三人の誰を標的としているか悟らせない


「俺が百発億中と呼ばれるのは的を外さないからじゃない

どこに撃てば当たるか見えるからなんだよ!」


ダンザの左目が妖しく光る


バァン!


残像を残すが如く左右に飛び跳ねるヨシツネの眉間に正確に弾丸が迫る


ブシャ!


ヨシツネの眉間が弾け飛んだ

しかしそう思われたのはヨシツネの額に飛び散った溶けた鉛玉だった


「くそ!」


ダンザは再び弾丸を装填する


「俺に来い!!」


熱風をかき分け突き進むアキヨリにヨシツネからの何かが到達し

両者は切り結ぶ為の繋がりで繋がる


「ああああああああ!

憎い憎い憎い憎い憎い!」


「そうだ我等平家一門討ち滅ぼした積りだろうが

まだここに生き残っているぞ!」


「ああああああ!」


「うおおおおお!」


アキヨリ渾身の太刀が放たれようとした

間合い

速度

これ以上の無い実力差をものともしない極上のキレを備えたものの筈だった

しかし呼吸を読まれた

太刀を繰り出す為の筋肉を躍動させる為に呼吸を強く止めた

その瞬間 ヨシツネのこれ以上は無いと思われた突進の神速が更に倍化した


「なんと!

これはアクヤの二重走り!」


アキヨリは遅れをとった

僅かに最高点に届く前の太刀筋はいとも簡単に弾かれ

ヨシツネの返す刀が首筋に襲いかかる


ギャイイン!


アキヨリの左手の脇差しが辛うじて受ける

刃や峰でなく柄の突端 冑金という部位である

イエナガの脇差しは冑金が二股に設えてあった

そこに白刃を挟み捻り折る為のものだ


「ハッ!」


気合いを発し脇差しを捻り後はヨシツネの太刀が折れる音と感触を味わうだけの

筈だった


「ああああああ!」


ヨシツネはキリュウが先程したように太刀を手放し

その手でアキヨリの首を喉輪で

意識が追い付かぬ程の速度で押し出して行く


「ぬおう!!」


アキヨリの後方に屋上の端部が迫る

それは生と死の境界線


「させてたまるかあ!」


アキヨリの肩越しにキリュウの槍が突き出される

標的はヨシツネの眉間


ドオオオン!


ヨシツネの背後に操炎術による爆発音

死角からの槍にも関わらず額を切られながら前傾して躱し

爆風で更に速度を上げるヨシツネ

キリュウはアキヨリの背中に弾かれもんどり打つ


「こんちくしょう!!」


鼻面を床に叩き付けながら放つキリュウの足払いはヨシツネの右足を捕らえた

それをアキヨリは踏ん張り直すきっかけにした


ズザザザ!


アキヨリの草鞋は見る見る摩擦でボロボロになっていく


「ああああああああ!」


直様体勢を整えアキヨリの胸に右肩を食い込ませヨシツネの突進は止まらない


ジャリ


アキヨリの胸が感じた感触は彼に無限の力を与えた

それはギンザブロウと誓った我杯の杯のカケラ


「勝ってくだせえ!」


アキヨリの胸にギンザブロウの声が蘇る


「勝て!アキ!」


ゲンの声が後を追い蘇る


「きゃたきゃたきゃたきゃたきゃたきゃたきゃたきゃた」


トウカの笑い声が蘇る


「もう一度トウカをこの腕に抱く日が来る事を

待っています日の本一の勇者が来て下さる日が来る事を」


リッカの声が蘇る


「こんな所で負けてたまるかああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


アキヨリは密着した間合いでは役に立たない太刀を手放しヨシツネの兜の忍び緒を掴み

右手一本で高々とヨシツネを持ち上げた

そして


「うおりゃあああああああ!!」


ドシャアン!


そのまま床に叩き付けた


ズサッ!


アキヨリの左足が生と死の境界線を越える


「若様!!」


駆け付けたダンザが滑り込み

落下を始めたアキヨリの襟首を掴み生の側に止まらせる

そして


バァン!!


振り向き引鉄を引く

標的は身体を起こしたヨシツネの眉間


ブシャ!


再び溶けた鉛玉がヨシツネの額に飛び散った


「ああああああああああああああああああああああ!!!!」


だが先程と違う点が一つだけあった

それは弾け飛ぶヨシツネの後頭部であった


「若様 瀬戸物をドロドロに溶かすのは容易じゃないんでしょうね」


「鉛の比では無いな

この塔の欠片を鉛玉の後に籠めたのだな」


「へへ、そんな塩梅です」


「ダンザ立たせてくれ」


アキヨリはダンザに助けられ立ち上がり

膝をつき前のめりに倒れつつあるヨシツネに静かに歩み寄り

その首に脇差しを一閃して大切なものを扱う様に首級を胸に抱いた

大切に大切に


ヨシツネの身体は白い尾羽の刺さっていた肩の辺りから白い羽と化し

月夜に舞い いずこかに飛び去って行った


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