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六角の花   作者: フミ
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地獄の使者

アキヨリは巨大タマネギへの架け橋になっている足場にしゃがみ込み

床と巨大タマネギの隙間から下を覗き込んでいる

笛の音は徐々に確実に大きくなっている


「トキワゴゼン…」


その曲は初めてアキヨリが覚えた曲だった

齢五つの頃である

生を受けると共に母を亡くしたアキヨリに

叔父のナリマサは寂しさを少しでも紛らわせようと様々な楽器を演奏してみせた

どの楽器も曲もアキヨリの心を潤してくれたが

一際 笛とその曲はアキヨリの心の何かと合致した

その曲には言い伝えがあった


幼くして母と離れ離れになったヨシツネが母への思慕の情を曲にしたのだという

その言い伝えをアキヨリが知ったのはナリマサから笛を貰い曲を覚えた後だった


人のつくる何かに籠められたものは

何の手掛かりも無く

同じ心情を持つ他者の心にも響くものだと納得したものだった

しかし四百年も前の人物の言い伝えである信憑は定かでは無い


「一体誰だ!

結界を見抜く技を持ち

この曲を知る者…

まさか叔父上がまた現れて下さったのか?!

会いたい一目だけでも

たとえどんなかたちであっても」


だがそんな淡く甘い期待は直様打ち砕かれた

アキヨリの注視する螺旋階段を登る後ろ姿を円柱の光が照らした


「赤糸威の大鎧!

今時でかいだけで実用性の無い

大鎧など身に付けるのは余程身分の高い侍だけだ

分からん!分からんぞ!」


何者かは以前として螺旋階段をゆっくりゆっくりと登って来る

しかし何かがおかしい

その歩む速さに比べ笛の音の音量は急速に大きくなってきている

既に不愉快といえる音量だ


「やかましい!

どんな笛を吹いているというのだ!」


音に気を取られ一瞬何者かに向けた視線を外してしまったアキヨリは戦慄した

再び何者かに向けた目に

すぐ真下まで迫って来た赤糸威の大鎧が映った

笛の音が止んだ

そして目が合った


「うわああああああああ!!」


アキヨリが叫び声を上げたのは驚愕からでは無い

恐怖からだった


大切な者の命が奪われる

そんな恐怖は感じた事はあったが

対峙した相手にここ迄恐怖する事は無かった


力、技で自分を遥かに上回るアカイ タネフサに対しても

想像もつかない術を駆使するソヤカに対しても

恐怖らしい恐怖は感じ無かった


アキヨリには強い弱いは勝ち負けには直接関係無いという信念があった


強い弱いは器の大きさで

器の中身の量が勝敗を決定するのだ

器の中身になり得るものは

勝敗に対する心構えであったり

護るべき何かであったり

叶えたい宿願であったり

目には見えないものである


それらはこの世の誰にも負けない自信があった


だが一目で理解させられた

そんなものは全く通用しない

圧倒的な実力差を突き付けられた

さらに


「ははうえぇぇははうえぇははうえぇ

いずこでございますか

ははうえぇぇ」


何者かは腹に少しも力を込めず

ろくに口も動かさず

呪うように呻くように黒く淀んだ声を発した


「うううううううう!!」


アキヨリの血流は停止し全身をおびただしい数の手に掴まれた様に動かなくなり

ただ呻くだけを許された

だがそれはほんの僅かな時間であった


「若様!!」


「アキヨリ殿!!」


頭上より浴びせられた声にアキヨリの血流は激流となった




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