桜か梅
「アキヨリ殿
まさかここで夜明かしするんですかい?
俺はてっきりゴクラクサイ殿の遺した物なんて言うもんだから
茶室とか細工を凝らした面白え
山小屋なんかだと思ったんですがねえ
いや
文句があるとか言ってんじゃねえんですよ
ただ走るのが得意な俺だって歩くよりは楽じゃねえんだよなあ
なあダンザ」
アキヨリの指差した杉の大木を目にしたキリュウは下顎を突き出した
その横顔を象形文字にすると不満という字になるのではないだろうか
だがたった一人でアキヨリに不満をぶつける度胸の無いキリュウは
突き出した下顎をダンザに向け同意を求めた
だがダンザからは意外な返事が返ってきた
「ドーマン!」
ダンザは眉間に右人差し指をあて杉の大木に真っ直ぐに視線を向けた
「うわ!
びっくりさせんなよ
なんだよ急に…
そうか分かったぞ普通じゃ見えねえんだな
見えるんだったらとっくにこの山で暮らしてたアキヨリ殿だって見つけてる筈だ」
「ダンザ何が見える?」
アキヨリは大きな岩に片手をついて寄り掛かり
好奇心丸出しの弾んだ声をダンザに投げ掛けた
大きな岩はアキヨリの手をついた物だけではなく
杉の大木を取り囲むように十数個存在していた
高さは人の背丈の三倍はあり
杉の巨大な根がその上から一本顔を出している
本来なら山崩れや大雨で周りの土壌ごと流される筈だった岩を杉の根が繋ぎとめたと言った感じではある
アキヨリから十間程 間を開け追走していたダンザは
アキヨリと岩の真ん前まで来るまで返事はせず
視覚とドーマンの術に全神経を集中しているのか
目を見開き岩と杉を交互に見て
次に目を閉じて術による視覚で岩と杉を交互に見た
そのすぐ横では杉とダンザを交互に見るキリュウがいた
「杉にしか見えないのではないか?」
表情の冴えないダンザの心中見抜いたといったしたり顔のアキヨリだった
「確かに杉です
だが変なんですよ
桜かなあ梅かなあ?
花が咲いてるんですよ杉の枝に
実際には何があるんですか?」
「なんだって!
凄いぞダンザ
俺が苦し紛れで編み出した印をつけるドーマンでもお前はそこまで見えるのか!
何があるかはついてくれば分かる
結界の様な物があるのだ
義父上が施したのだろうな」
そう言うとアキヨリは岩についていた手を少し横にずらし
岩に預けていた重心を更に傾けた
するとアキヨリの体は岩の中に吸い込まれるように消えて行った
「なんと!若様!」
「うわ!アキヨリ殿大丈夫なんですかい?!」
目玉を飛び出させ二人はアキヨリの消えた辺りを覗き込んだ
そこは岩である人が行き来出来る筈などない
しかしそこから突然アキヨリの手が飛び出してきた
「うわああああ!!」
「ひゃあああああああ!」
驚く二人をよそに飛び出してきた手は落ち着き払って手招きする
「キリュウ槍
ダンザ鉄砲と三味線
先に渡しておけ
とにかく狭いんだよ途中で引っかかったら見えないお前達はそれっきりだぞ
早くしろ」




