昔から
「どうしたんだよダンザ
まだ話の途中じゃねえかよ
それも一番いい所だ
それでどうなったんだよ」
突然何かを思い出すように前を行くアキヨリの背中を見つめ
黙りこくっていたダンザに
訝しそうにキリュウが話の続きを催促した
「ああ、すまないな
俺は立ち上がってふらつく足を引きずって屋敷の縁側まで歩いて行ったんだ
俺を呼ぶ若様とタキの声は門の方から聞こえていた
裸足のまんま庭木に寄り掛かりながら何とかかんとか門まで辿り着いた時の若様を思い出していたんだ」
「そりゃどんなだったんだよ?」
「仰向けにぶっ倒れていたよ」
またダンザはアキヨリの背中を見つめた
「もったいぶるなよ
しかし気を持たせる話し方だぜ
何でぶっ倒れてたんだよアキヨリ殿はよ
ガキの頃とはいえ あの人をぶっ倒せる奴なんかそうは居ねえんじゃねえか?
まさかダガ カゲナリの奴がやったのか?」
「はははは!
まさか…
いや、若様は年中タキに諌められて
ぶっ倒されていたがな
だがその時は違っていた
仰向けの若様の隣にはイエナガ様に羽交い締めにされたタキが居たよ
タキの肩には燻製にされた鮎が十数匹紐でくくられてぶら下がってた
手には桃やらの果物
それと丸焼きになった鴨が握られてた
俺に届ける為に持って来てくれたんだ
だがそんな物 病気の俺に食えるはずも無い
無理をさせるだけだとイエナガ様が若様とタキを止めに来たところだったんだ
俺の姿を見つけたタキは羽交い締めにされながら
ダンザ 食えー食えーって
ガタイのでかい怪力のイエナガ様を引きずりながら近付いてきたよ
俺も無性に俺の為に来てくれた三人が恋しくなっちまって
ふらふら向かって行ったよ
それに気付いたイエナガ様が俺に駆け寄って来て
無理をするな!
って言って俺を肩に担ごうとした
そこにタキも目の前までやって来て
握り潰した桃を突き出してきた
食ったよ
熱のせいで味なんかしなかったが最高にうまかった
タキの肩からひったくって
鮎も食った
鴨も食った
そしたらどっちが上かどっちが下か分からなくなった
そっから先は覚えていない
気が付いたら布団の中だった
イエナガ様が運んでくれたんだろうな
それからも毎日毎日イエナガ様の目を盗んで若様とタキは雨の日も風の日も俺を誘いに来てくれた
さすがにもう布団から出ようとはしなかったが
俺達が諦めて無いんだ
お前も諦めるなって
俺には二人の声がそう聞こえたんだ
二十日位かな
やっと熱も下がって起き上がれるようになった頃気付いたんだが
左目が殆ど見えなくなってた
だけど若様とタキがずっと励ましてくれてた
二人のおかげさ屁でも無かったぜ」
「何だって!
じゃあおめえ片目しか見えねえのかよ!」
「いや
今は見える」
「そ、そりゃ良かったぜ
おめえは遠目がやたら効くから片目だなんておかしいと思ったぜ」
「まあそれなりに難儀して見えるようにはなったんだがな
やっと出歩けるようになって
今日こそは若様とタキの誘いを受けようって待ち構えてた そん時の誘いは
ダンザ鉄砲を撃ちに行こうぜ
だったよ」
「それがおめえと鉄砲の出会いだったって訳だな」
「ああ
片目が見えなくなって槍や太刀の間合いが掴みずらくなった俺に
鉄砲なら撃つ時は誰だって片目だ
って出回り始めた鉄砲を手に入てくれたんだ」
「昔っからなんだな」
「ああ昔っからだ
若様は俺の命を拾ってくれて
生きる道までくれたんだ」
ダンザは三度アキヨリの背中を見つめた
その視線に気付いたのか否かアキヨリは振り返った
そして
「見えたぞ!」
だがアキヨリの指差す先に見えるのは樹齢三百年はあろうかという杉の大木があるだけだった




