千里眼
「アキヨリ殿!アキヨリ殿!
うおおい!アキヨリ殿てばよぅ!
おい!ダンザよ一体どうなってんだよ」
目を閉じたまま微動だにしないアキヨリに
どうしていいか分からなくなったキリュウは真上を向いてダンザを呼んだ
「若様の事か?
いつもの事だ心配いらぬ」
「いつもの事ってなどういう事だよ
降りて来て何とかしてくれ」
「無理だ
俺が唯一船酔いしないのが帆柱の上の見張り台なんだ
どうしても戻って来て欲しくば一発張り手を食らわせれば良い
戦場ではよくそうしたものだ」
「ガキの頃からの仲のお前なら出来るだろうが
俺にそんな事が出来るはずがねえだろう
ったく坂東武者ってのは年中仲間同士ぶん殴り合ってんのかよ…
うわっ!」
キリュウの持っていた握り飯に突然アキヨリが食らいついた
「ん…ぐ…ん
なあキリュウよ兄とは偉大な存在だな」
「なんでさあいきなり
自分で持って食ってくだせえよ」
「ああ そうする
しかし今回アキの国に向かうのは全くの私事だ
シジマ家の者ならまだしも
キリュウお前を巻き込んでしまい済まない」
「いやいや俺は嬉しかったんでえ
誰より俺の槍の腕を見込んでの事なんでしょうし
それに何て言うかその…」
「私事でサカイを離れるのは控えなくてはな
昨日のギンザブロウ殿をはじめ
皆俺に並々ならぬ期待を寄せてくれているのだ
ん…んぐんぐ…」
「いやそうじゃねえんだがなぁ」
キリュウは顔を背け船と並走して飛ぶウミネコに向かって呟いた
「何か言ったか?」
「いや何でもありゃしません」
「そうか」
アキヨリはまた目を閉じた
「あーもういいや!釣りでもするか!」
再びアキヨリが頭の中で反芻するのは昨日のジョスイとのやりとりであった
「おい若大将よ
人と話してんのに何トンボなんか見てんだよ」
「ああ済まない
今回も一月程暇を貰おうかと思うのだが」
「行き先はホウライ山だな
その千里眼ならカミさんの囚われた壇の見えねえ仕掛けを見破れんだな」
「恐らくそうだ
俺にドーマンを御伝授下さったヨダ殿が申すに
ドーマンの術は万物から跳ね返る光を見るのでは無く
万物に宿る八百万の神の命を見るのだそうだ
それを遮るものなどこの世には無い故
ドーマンは海の底を見渡せるし
建設中の貯水池から造船所にいるダンザの姿も見えたのだ
強い力に守られたものなら余計に鮮明に見る事が出来る
勿論見るだけだ
見る見ないでは策を練るに雲泥の差がある
それに義父上の残した何かも発見出来るかも知れん」
「そうかい
だったら今回はそれに専念しな
シマの時みてえに仲間を増やそうなんてしねえでいいぜ
しかし流石だと思ったぜ
海賊と帰って来たかと思えば後から後から山賊やら侠客やら
おめえを尋ねてやって来やがる
受けた恩に後ろ足で砂をひっかける俺には到底マネ出来ねえってもんだぜ」
「お前とてキリュウやヘイクロウを始め癖のある者達を良くまとめ慕われている
ところで訪ねたい事があるのだが」
「なんでえ」
「他でも無い
兄上達イスパニアとの戦いで命を落としたシジマ家の者達が葬られているのはどこだ?」
「そうだな墓参りする間も無かったな
おめえらシジマ家が本陣を置いてたオンケイ寺だ
手間をかけてやる余裕が無かったから墓石は何の手もかけて無え
ただでけえだけの自然石だ
すまねえな」
「お前が兄上達を…」
「やらねえ訳には行かねえだろうよ…
もっとも罪滅ぼしだなんて思っちゃいねえぜ
ただ敬意を表したかったんだ
そうだ!
真昼間から行くんじゃねえぜ
ナリカワの奴等に見っかるのは元より
あの土地じゃシジマ家は逆恨みされてんだ
おめえの顔を覚えてるヤツもいるだろう
誰にも見つかるんじゃ無えぞ」
「ああ…」
「アキヨリ殿!アキヨリ殿!」
「わーかーさーまー!!」
「ああ…聞こえているよ」
ダンザとキリュウに現へと引き戻され
アキヨリが見上げるはオンケイ寺の山門
山門越しに見上げるはサカイを立ってから十回目の月だった




