秋のそら
十字架の細かい紋様がいくつもあしらわれた
金の指輪がはめられた人差し指が天を突くと
アキアカネが一匹それにとまった
「わざわざ俺の指を選んでとまるなんざ
おめえカミラの生まれかわりか?」
アキアカネは何の前触れも無く飛び立ち
無数に飛び交う仲間の中に混じり高い空に線を描き続けた
「人違いだったみてえだな」
ジョスイは空に向けた視線を一気に下方へと移し
最早 堤防と呼ぶに相応しい土塊の上から五百の猛者達を睥睨した
まだ完成とは言えないが貯水池は水では無く
戦いに挑む為己を鍛えんとする荒武者達を湛えていた
表立って練兵など出来ない彼等は
外界と遮断された貯水池建設現場で
午前を貯水池建設
午後を練兵に日々打倒ナリカワの力を蓄えていた
「小隊を指揮する者を瞬時に見極め
狙い撃て
同時に城壁に辿り着く突破力のある者も見逃すな
行くぞ!」
ダンザが長椅子を蹴り倒すと倒れていた側から二十数体の等身大の人形が起き上がった
みすぼらしい雑兵を模った人形の中に数人の立派な鎧姿の人形が見て取れた
ババババババババァァァン!!
三百の鉄砲が一斉に火を吹き鎧姿の人形は粉々に吹き飛んだ
するとバネ仕掛けで一体の人形が突然長椅子の裏から飛び出した
ババババババババァァン!
一発目を撃ったダンザ率いる鉄砲隊はすぐ様二発目を装填発射し
飛び出した人形が再び地上に帰る事を許さなかった
「いよぅし!!」
ダンザは口角を片側だけ吊り上げ自らも引き金を引いた
バァン
ダンザの一発は最後に落ちて来たハリボテの兜を粉砕した
「騎馬でお互い体が触れ合うくらい密集して走るのは中々難しいものだ
行くぞ!!」
「あいゃややや うーややー」
アキヨリとアクヤは凄まじい速度で二本の杭が立てられた四間の隙間を駆け抜ける
その後ろから二百の騎乗が続く
ドダダダダダダダダダダダ!!
蹄音は強調し合い広がり小さな穴から勢い良く放たれる水鉄砲のように
広がり走っていた時より
杭の隙間を通り抜け後の方が速度を上げているかのように錯覚するほどであった
「上々だ!!」
「あいゃややー!」
「トウカ様ご満足頂けましたかな?」
皆を振り返り速度を落としたアキヨリにフジオカが追い付き
アキヨリの懐に声をかけた
「うーややーあ!」
「そうで御座るか
しかしこのフジオカ慢心する事無く
精進に精進を重ねる所存に御座る」
「あいゃ」
「トウカ殿!次はこのキリュウに鋭く敵の背後を取る切り返しを御伝授してくだせえ!」
「やいやいやー!」
「おい!お前ら赤ん坊に様だの殿だのつけるなと何回言ったらわかるのだ!」
「おや?
アキヨリ殿ではありやせんかいつからそこにいたんですかい?
おいら達ぁトウカ殿の指揮で練兵の真最中なんでえ
なあフジオカ!」
「おうよ!
アキヨリ様は百発零中の腕が少しでも上がりますよう
ダンザにしごかれておったらどうで御座ろうか?」
「やいやいやーやー!」
「トウカ殿もそう言ってまさぁ
あーはっはっはっは!」
「五月蝿い!五月蝿い!五月蝿い!
フジオカ!キリュウ!トウカ!
これでもその減らず口が叩けるか!」
アキヨリとアクヤは鋭く切り返しフジオカとキリュウの後ろを追い回し始めた
「うわあー!お助けを!」
ペチン!
「ちょっと待ってくだせえ!」
ペチン!
「きゃー!」
追い付かれる度にフジオカとキリュウは尻を叩かれ
アキヨリの懐のねんねこでトウカは渦潮に飲み込まれたように目を回し楽しげに悲鳴を上げた
「おう若大将!
楽しそうなところ悪りぃがちょっといいか?」
人の昇り降りの為に設けられた堤防と平行する緩やかな斜面を下りながらジョスイは手招きした
「なんだジョスイ
皆すまん少し外す
フジオカ、キリュウ後は頼んだぞ」
「やーあやややー!」
「はっ!トウカ様かしこまって御座る!」
「任せてくんなトウカ殿!」
苦々しげに二人を睨みつけながらアキヨリはジョスイへと向かった
「悪りいな若大将
おうトウカずいぶんおしゃべりが上手くなったな」
「話というのは何だ」
「俺の取り越し苦労ならいいんだがな」
「勿体ぶらず話せ」
「おめえ凄え千里眼を覚えて見てえもんがあるんじゃねえか?」
「ううむ」
「図星だな
一月もシマに行って来てまたサカイを離れるのが気に病まれて
言うに言い出せねえんじゃねえかと思ってたんだ
それともそのかわいい息子と離れるのも忍びねえのか?
息子って言えばでけえ息子共もあそこにいっぺえいるな」
「ううむ」
「行って来いよ
おめえの子分共もおっかなく無くなったしよ
少しの間なら俺達が何とかするぜ」
「ううむ」
「若様!
またどこかに行かれるか?!」
「ダンザいつからそこにいた?!」
「今度は置いてきぼりは御免ですぜ」
「キリュウまで!」
「決まりだな
行って来いよ若大将」
「ううむ」
アキアカネに一匹だけ紛れたオニヤンマがアキヨリの前をかすめた
「アキヨリよ最もお前が頼りとする手練れを二人連れて来るのだ」
「義父上か?!」
アキヨリは咄嗟にオニヤンマを目で追ったが秋の空は青く高く
陽光に眩しく細めた目にはトンボ達が描く軌道は霞んで溶けあってしまっていた




